『一人の旅』

rhythm

1章:まっ白な偽装

まっ白な光が部屋を満たしていた。

窓は開け放たれているのに、空気は重く、息をするたびに孤独が胸に沈む。


一人――名前も肩書きも意味もない存在。

他人行儀な笑顔の影が壁に揺れ、疑心暗鬼が耳元でささやく。「ここから出て行けると思うか?」


いや、鬼にはなれない。

ただの放任の中で、自由を装うしかない。扉は開いているが、心はまだ鉄格子の向こうにある。


一歩、また一歩。

羽ばたく音もなく、鳥籠の中の空気を切り裂く。足先から胸の奥まで震えが広がる。

「理――決められたルールの檻から抜けた瞬間、体は軽く、心はやっと自分のものになる。」


外の世界は光だけではない。冷たく、無情で、時に痛い。

それでも飛び立つ価値はある。何者でもない「一人」が、初めて「人」となるために。


光の中で呼吸を整え、目を閉じる。白の世界に身を任せ、次の衝動に備える。

そして、白の静寂はやがて、赤い熱を待つ前触れのようにも感じられた。

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