龍門ヒカリ
平日真昼の駅前における、鉄砲玉との戦闘。
仮にも先進国の一つであり、まだまだ経済的には優位を維持している国家の副都心で起きたとは思えぬ事件に対し、居合わせた人々が見せた反応はと言えば、ただ一つである。
すなわち……。
「うおおっ! すっげえ!」
「リュウカちゃん、カワイイー!」
「俺、初めて生のエルフ見ちゃったよ!」
「こっち見てー!」
「極道エルフサイキョー!」
……やんややんやの歓声であった。
そもそも、ヤクザ大国日本において都市部へ住む人間というのは、いついかなる時、ヤクザの抗争に巻き込まれて死んでも構わぬという覚悟を持つ者たち。
その上、墨田区の住民というものは、江戸の昔からノリと気風の良さで知られている人種なのだから、このような反応となるのはごく当然のことなのである。
家事と喧嘩は江戸の華。
間近で見物する極道の抗争は、伝統的な庶民の娯楽なのだ。
「ありがとう! ありがとう!
ハッシュタグには、『#極道エルフ』をよろしくのう!」
ゆえに、戦闘を終えたリュウカの反応も慣れたもの。
業物のドスがごとく鋭利な耳をピンと立たせ、人垣となっていた見物人たちにファンサを行なうのであった。
「他のハッシュタグはー?
『#龍門会』って入れなくていいのー?」
ごく自然にリュウカが属する組の名前を口に出す女子高生。
我が国において、地元ヤクザ組織の名前というのは、下手なジャニーズ系アイドルグループの名称よりも広く知られているのである。
「制服をまとっている時のわしは、聖黒百合学園初等部六年二組の世話になってるもんじゃからのう……。
とはいえ、学校の名前を出したら、先生方やお姉様方に迷惑がかかってしまう。
ゆえに、今回、組の名前はなしじゃ!」
そんなJKに対し、リュウカがキッパリと言い切った。
明らかにヤクザ組織の組とクラス割の組とを混同している上に、お姉様方とやらは間違いなく三桁レベルで年下であろうが、そのように細かいことを突っ込むのは野暮というものだ。
「おっと、そうじゃ!
今は組の皆と、何よりお嬢と一緒に下校しとるところじゃった!」
そんなお調子者の極道なエルフ小学生が、はたと気づいて、遠巻きに離れていた同じ制服姿の少女たちに視線を向ける。
それから、鉄砲玉たちを一蹴した時と同様、瞬間移動じみた歩法で少女たちの前に滑り込み、一人の前で膝をついたのであった。
「お嬢! ヒカリお嬢!
お怪我はございませんでしたか!」
まるで、中世の騎士がそうするかのようなうやうやしい仕草。
しかしながら、リュウカの生まれが江戸時代初期であることを思えば、ほぼほぼガチ中世の人というかエルフなのだから、これは妙に様となっている。
「う、うん……。
わたしは大丈夫だよ」
一方、膝をつくリュウカに対し、長い黒髪をはらりとさせながら答えたのは、これは絵に描いたような和風のお嬢様であった。
髪の色と髪型もさることながら、やわらかさを感じさせつつも気品の漂う佇まいは、背後に桜の花を幻視するほどのたおやかさなのだ。
聖黒百合学園のジャンパースカート制服もよく似合うが、和服を着せれば生きた日本人形と化すこと請け合いであろう。
「あの子は……?」
「ほら、龍門会の」
「ああ、龍門ヒカリちゃん?」
「ちっちゃいのに、綺麗でカワイイー!」
「やっぱり、でかい組のお姫様は育ちが違うわね」
そんな彼女の姿を見て、野次馬たちがヒソヒソと語り合う。
SNSが発達した現代社会において、一次団体の構成員とその親族は、半ば芸能人じみた存在であると言って過言ではない。
ましてや、現組長にとってただ一人の身内となる孫娘でかつ超美少女ともなれば、顔と名が知られるのは自然なことであった。
もっとも、当人がそれをよく思っているかといえば、それは別のこと。
「――っ!
早く行こ! リュウカちゃん! みんな!」
顔を真っ赤にしながら忠実な護衛と学友に言い放ったのを見れば、どう思っているかは明白であった。
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