競馬とハンドクリーム

大甘財閥

第1話 諺通り

 禍福は糾える縄の如し


 という諺があります。


 意味は、幸不幸は交互にやってくるというものです。


 短時間でそれを体験するとは、一日前には思ってもみませんでした。


 これは、年も押し迫った2025年12月28日。


 色々な用事を済ませた午後のことでした。



 この日は今年最後の大勝負、有馬記念の日でした。


 私はギャンブル好きですが、競馬はTVで観ても馬券は買わないと固く心に誓っています。


 じゃあ何のために観るのかというと、自分の勘の働きを試すために観ています。


 今年も最後の大勝負で、自分の勘が今どれだけ冴えているか、パドックの映像やオッズで予想しています。


 流れる映像を観て、ある馬の名前に引かれました。


 そして、もう一頭は映像を観ていて「何かくる」のを感じました。


 この二頭に絞り、発走を見守りました。


 この後にハンドクリームを作ろうとしていたのでその準備をしながら流し観していると、「何かくる」予想している馬が先頭でした。


 最終の直線でも先頭を保っていたのですが、脇から一頭が猛追してきました。


 結果は、猛追してきた一頭が優勝しました。


 それは、名前に引かれた馬でした。


 一位、二位が、予想した馬だったのでした。



 再度申し上げますが、馬券は買っていません。


 ですが、勘が的中したので脳内はアドレナリン大量分泌です。


 ファンファーレが鳴り響き、紙吹雪が舞っています。


 気分良く今年を締めくくれそうな幸せな予感に満たされて、ハンドクリームの製作を始めました。


 ハンドクリームは何度も作っているので手順も覚えています。


 ビーカーにスイートアーモンドオイルとミツロウ、シアバターを入れて湯煎にかけ、溶けたらアロマオイルを混ぜて保存瓶に移す。


 ですが、糾える縄はここでシフトチェンジをしてきました。


 いつものように湯煎をして、アロマオイルを混ぜるためにビーカーを取り出そうとしたら、ビーカーの周りについていたオイルでつるっと滑り、小鍋に中身をぶちまけてしまいました。


 「え?」となったその瞬間、脳内は凍りついて指一本動かない数秒が流れました。


 その後、すぐにビーカーを取り出しましたが、中身は小鍋に半分以上流れ出していました。



 あれだけ華々しく鳴り響いていた金管楽器は重々しい弦楽の葬送行進曲に変わり、舞っていた紙吹雪も散り落ちました。


 後片付けも大変で、オイル類はなかなか落ちないので食器用洗剤では無理でセスキ炭酸水を使うことになり、服にもいつの間にかついて油染みになっていました。


 もう一度ハンドクリームを作ればいいじゃないかと思われるかもしれませんが、シアバターとミツロウをこれで使い切ってしまいましたので買いに行くしかありません。


 物価も上がっているので、日頃から節約を心掛けて慎ましく過ごしていたのに、年の瀬でプラマイゼロになったように思いました。


 いや、プラマイゼロどころかマイナスじゃないか。


 馬券、買っておけば良かった。


 ただでさえ色々あったこの一年、締めくくりがこれかと悲嘆に暮れております。



 ですが、禍福は糾える縄の如し。


 禍の後には福が来るはず。


 できれば今年中に一度来てくれると嬉しいな。


 縄どころか藁のような希望でも、縋れるならそれでもなお縋りたい気持ちです。



 確実に軽くなるのは心ではなくお財布ですが、近いうちにアロマショップに買いに行きます。


                   おしまい

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競馬とハンドクリーム 大甘財閥 @moccakrapfen

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