042. 『愛属性』の魔法
「うーん……花に時止めの魔法を『付与』するのを何度試しても、周囲の魔力が足りなくて、あっという間に解けてしまいます……」
「海はそれそのものが無尽蔵の魔力の塊だったから困ることはなかったのだけれど……。陸だと、そうはいかないものね」
アヤメとスフェーンは、時止めの魔法効果が解け、しおれてしまった花を前に、静かに頭を抱えていた。
サクラとルリの結婚式の日から、スフェーンは城のアヤメの部屋に住み始めた。スフェーンがオニキスに頼んで空間魔法で海の底から持ち込んだ、飾りを作るための道具や材料で、アヤメの部屋は今はすっかり賑やかになった。
「狭くしちゃって、申し訳ないわ」
「ふふっ、元々、殺風景でしたので……スフェーンのおかげで、心躍る部屋になって嬉しいです」
申し訳なさそうにするスフェーンに、アヤメは屈託のない笑顔を向けた。
アヤメの考える「時魔法を産業に活用する」話に、スフェーンは興味津々だった。今は、アヤメが新しく手に入れた力、『付与』の魔法をどうにか使えないかと二人で思案しているところだ。
「フィオーレ王国の象徴である時止めの花、ぜひ商品化したかったのですけど……。うまくいきませんね」
「そう言えば、サクラが『動くものに時止めの魔法をかけるのは難しい』って言っていたわね」
スフェーンは巨大な鮫の魔物「アビス・ゲイザー」と戦った時のことを思い出していた。動く巨大な鮫に時止めの魔法をかけるのが難しかったので、最初に時止めの魔法をかけるところだけ、高いセンスで魔法を扱えるルリが担当したのだ。
「もしかしたら、動物や植物のように、生命のあるものに時止めの魔法をかけると、魔力消費が大きいのかしら。生命のないもの……例えば鉱石とか、そういうものにかけてみるとか、どう?」
「鉱石……うーん……ナイフとか……いいかもしれませんね。錆びないナイフができそうです。後でやってみましょう」
スフェーンのひらめきに、アヤメは目を輝かせた。
「あとは、魔力を補充する、燃料をつけるとかかしら……魔力補充用の燃料として、海水を売りに出してみる?」
スフェーンがそんな案を出すと、アヤメは首を横に振った。
「……スフェーンの故郷である大切な海を、私たち人間の都合で荒らしたくないと思うのです。すみません、案をいただいたのに」
アヤメがそんなことを申し訳なさそうに言うので、スフェーンはアヤメを優しく抱きしめる。
「ふふっ、たしかにそうね。私の故郷の海を愛してくれてありがとう、アヤメ。燃料に関しては、別の案を考えましょう」
スフェーンはそう言ってアヤメの頭を優しく撫でた。
その後も二人であれこれ案を出したが、燃料に関してのいい意見が出ることはなかった。
「そういえば……」と、アヤメはふと思い出したように語り始めた。
「私が使える魔法についてなのですが……。元々使えていた、時魔法、火魔法、そしてスフェーンのおかげで新しく使えるようになった、付与魔法。それに加えて、水魔法と、身体強化魔法も使えることがわかったのです」
「あら、そうなの?」
「はい……私が人魚の里から帰ってきてからすぐに、宮廷魔術師のキウイさんが調べてくださったのです」
人魚の里に行く前にキウイが出した仮説は「アヤメの魔法適性はローズから与えられたもの」であった。だが、人魚の里での出来事――スフェーンとの間に感じた『魂』の繋がり、そしてスフェーンが適性を持つ付与魔法をアヤメ自信が行使できたことをキウイに伝えると、キウイは新しい仮説を出してくれた。それは、「アヤメは、心で強く繋がりあった者の適性を与えられる」という仮説だった。
その仮説を元にキウイが検証を進めたところ、スフェーンが適性を持つ水魔法も使用できることがわかった。そして、ローズの適性が与えられているのなら、同様に強い母娘の繋がりを持つ葵の適性も与えられているはず……そう予想して検証したところ、実際に葵が適性を持つ身体強化魔法も使うことができた。
「キウイさんたら、私の属性に名前をつけるなら、愛し愛されたものと繋がる属性……『愛属性』ですね、なんて、ロマンチックなことを言うんです。でもそれが本当なら、とっても素敵ですね」
そう言って微笑みながら、アヤメは胸に手を当てた。目を閉じると、適性を与えてくれている皆の繋がりが、心の中で確かに感じられた。
「ふふっ、素敵ね……。それに、アヤメには無限の可能性があるってことよね。次は空間属性なんて手に入るといいわね。オニキス母さまが使っているのを見ながら、いつも便利そうだなあって思っているの」
「でも、私にはもう、スフェーンという心に決めた人がいますし……」
アヤメはスフェーンとの確かな繋がりを感じた時のことを思い出す。あれは、スフェーンと想いを通わせて、口づけを交わした時のことだった。つまり、それぐらい……恋人になるぐらい濃厚な関係でなければ、適性の付与はされないということだ。
しかしスフェーンは、アヤメを優しく抱きながら耳元で囁いた。
「私は、アヤメがどれだけ愛を広めようと、気にしないわ。アヤメの魅力がわかる人と語り合うのも楽しそうだし……」
そしてスフェーンは、アヤメの頬にそっと触れた。その黄緑色の透き通った瞳で、アヤメのことをまっすぐに見つめる。アヤメは、その瞳の奥にある、スフェーンの確かな深い愛情をはっきりと感じ取った。
「そうね、ただ、私と同じくらいアヤメのことを深く愛してくれる人じゃないと、認められないわ」
「……ふふっ、それは難しい基準ですね」
どちらからともなく、そっと口づけをした。未来のことはまだわからない。ただ、二人は今、確かに愛し合っている。二人は深く、甘い口づけで、その愛を確かめあった。
後日アヤメとスフェーンは、ナイフの刃にのみ時止めの魔法を付与すると、空気中のわずかな魔力のみで持続可能であることを突き止めた。そうして作られたフィオーレ王国特製「刻凍ナイフ」は、ナデシコの国と販売契約を調整中のプラムワインに先んじて、「アヤメ印」の商品第一号として、試験的に極少数を市場に開放することになった。
このことが後に「災い」を生むとは、この時はまだ、誰も予想すらしていなかった。
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【あとがき】
人魚の里編を終えてから、全然出せていなかったアヤメとスフェーンの様子をようやく書くことができました。
アヤメの今後は……どうなるのでしょうか。
優しく見守っていただけると幸いです。
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