人魚と姫

プロローグ

 フィオーレ国の王城、荘厳な中庭の真ん中。

 立派な噴水の近くのテーブルで頬杖をつきながら、深く、深く、ため息をついた。


「やっぱり嫌だわ! よく知らない人と結婚なんて……!」


「ニンゲンのおひめさまは大変なんだねぇ」


 水面から顔を出した人魚――親友のルリが、どこか呑気な声でそう言った。

 他人事のような言葉に、小さく眉をひそめる。


(まあ、ルリにとっては本当に他人事なんだから、仕方ないわ)


 ルリは、藍色の瞳をきょとんと瞬かせながら、腕を組んだ。


「つまりサクラは、知らない人とケッコンするのがイヤなのかな?」


「そう。この国の姫なんだから、いずれは結婚して王位を継承しないといけないってわかってる。でも、予言だかなんだか知らないけど、世界の災いを退けるために私の結婚が今すぐ必要なんて、おかしくない!?」


 絶望がじわりと胸に広がる。

 よく知らない誰かと、これから長い一生を共にしろなんて……。


 その時、突然。ずっとしかめっ面で考え事をしていたルリが、ぱあっと顔を輝かせた。

 まるで水面に差した陽光のような笑顔を、こちらに向けたのだ。


「あっ! ねぇ、サクラ、聞いて!」

「な、何?」


 私の不安を一瞬で吹き飛ばすような飛び切りの笑顔で。

 ルリはこう言ったのだ。


「なら、わたしとケッコンすればいいんじゃない?」


「――っ!?」


 あまりの衝撃に、私は息を呑んだ。


 私の運命は、確かにその時、その一言で、動き始めたのだ。





――――――――――――――――――

【あとがき】

かわいい女の子をいっぱい書きます。よろしくお願いします!


「小説家になろう」からの転載です。

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