第18話 リナ豹変

 廃屋のテレビが、ノイズと共に奇跡的に映り出した。

 そこでは、かつての平和な日本で放送されていた**「新婚さんいらっしゃい」**の再放送が流れている。

​ 画面の中では、幸せそうな新婚夫婦がのろけ話を披露し、司会者が椅子から転げ落ちて笑いを誘っている。

​「……あ、はは。……あははは!」

​ それを見ていたリナが、突然、不気味な笑声を上げた。その瞳から光が消え、顔の筋肉が激しく痙攣し始める。

​「なんなのよ、これ……。なんでこの人たちは笑ってるの? なんで私たちは、首を爆破される恐怖に怯えて、雪の中で凍えてなきゃいけないの!?」

​ リナは手に持っていた**心拍同調器(シンクロ・メーター)**を、画面の中の幸せそうな妻の顔に向けて投げつけた。

​「ふざけないでよ!!」

​ 彼女は狂ったように叫び、部屋の隅にあった暖炉の火かき棒を掴み取ると、ブラウン管を粉々に打ち砕いた。火花が散り、部屋が一時的に暗転する。

​ 運営による薬物投与の副作用か、あるいは極限状態による精神崩壊か。リナは、画面に映る「平和なカップル」という概念そのものに激しい殺意を抱いたのだ。

​「リナ、落ち着け!」

 ​タクヤが彼女を止めようと近づく。しかし、その瞬間、二人の首輪が「ピーッ」と高く、鋭い警告音を鳴らした。

​【警告:非パートナー接近。爆発まで残り10秒】

​「来ないで!! 幸せそうな奴らは、みんな死ねばいいのよ!」

​ リナは火かき棒をタクヤに振り下ろし、そのまま吹雪の吹き荒れる屋外へと飛び出した。

 彼女が去ったことでカウントダウンは止まったが、タクヤの耳にはまだ、リナの耳を裂くような悲鳴と、砕け散ったテレビのノイズがこびりついていた。

​ 

 その頃、運営室では

​ サキは、モニター越しにリナの発狂を眺めながら、満足げに微笑んでいた。

​「いいわ。愛を憎む心こそ、このゲームの最高のスパイス。……さて、次は**『離婚経験者』**のハンターを投入して、彼女の絶望を完成させましょうか」

​ サキの手元にある**「遠隔操作パネル」が光る。

 雪山の斜面から、新たな重機――「雪崩誘発用・遠隔音響砲」**を搭載した車両が、リナの背後を捉えようとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る