第10話 屈折する殺意
メスを構えて飛び降りてきた狂信者の女が、サキの喉元に刃を突き立てようとしたその瞬間。
「……させない!」
タクヤは無我夢中で、砂浜に半分埋もれていた「黒いアタッシュケース」を掴み、盾にした。激しい金属音と共に、鋭いメスがケースの表面を削る。それは先ほど惨殺されたカップルが持っていたのか、あるいは運営側が「娯楽」として配置した支援物資か。
タクヤはサキを背後に庇いながら、ケースのロックを解除した。
中に収められていたのは、異様な形状をした銃火器――**「コーナーショット」**だった。
銃身の半分が折れ曲がり、先端には高解像度カメラとライトが装着されている。物陰から身をさらさずに敵を撃ち抜くための、現代戦の究極の補助兵器。
「何それ、おもちゃ?」
狂信者の女が、歪んだ笑顔で再び踏み込む。
タクヤは震える手でコーナーショットのモニターを起動させた。銃身を「くの字」に折り曲げ、岩陰に隠れたまま、死角から迫る女をレンズで捉える。
「……これなら、見える」
引き金を引くと、9mm弾が女の膝を正確に撃ち抜いた。
「あぎゃあああ!?」
砂浜に転倒する女。タクヤはさらに銃身を曲げ、倒れた女の背後――茂みの奥に潜んでいた**「元自衛官のリストラ男」**の銃口をも捕捉した。
殺意の連鎖
「タクヤ、顔つきが変わってる……」
サキが怯えた声で呟く。
コーナーショットのモニター越しに世界を見るタクヤの瞳からは、光が消えていた。肉眼で敵を見ず、液晶の中の「ターゲット」として処理する感覚。それが、彼の恐怖を麻痺させ、冷徹な狩人へと変貌させていく。
リストラ男が放った狙撃弾が岩を砕くが、タクヤは一歩も動かない。銃身の角度を微調整し、岩の真裏から、男が潜む狙撃ポイントの「隙間」をレンズに映し出す。
――パァン!
二発目。リストラ男の指が、スコープごと吹き飛んだ。
「ハンターも、獲物も関係ない。僕たちが生き残るために……全員、排除する」
タクヤは倒れた狂信者の女からメスを奪い取ると、それをコーナーショットの銃口付近にテープで固定した。遠距離射撃と近接解体を両立させた、無人島限定の**「歪んだ武装」**の誕生だ。
深化するデスゲーム
その様子は、カジノで観戦する富豪たちを熱狂させた。
『いいぞ! 獲物が牙を剥いた!』
『コーナーショットのタクヤに1億賭ける!』
運営側は、タクヤの「覚醒」を見て、さらなるスパイスを投下する。
島の各地に設置されたスピーカーから、再びあのノイズ混じりの声が響いた。
『素晴らしい。タクヤ様、ボーナスポイントです。現在、島に隠された「弾薬箱」の位置を、あなたの端末だけに送信しました。……ただし、そこには**「鎌の継承者」**が先回りしていますがね』
タクヤはコーナーショットのモニターに表示されたマップを見つめ、サキの返り血を拭うこともせず、ジャングルの闇へと歩き出した。
「次は、あの『鎌』を折る」
愛を守るための力は、いつしか愛そのものを置き去りにし、純粋な「殺戮の効率」へと加速していく。
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