第3話 【3】野営地
黒い卵を抱えながらルオさんについててくてくと歩けば、やがて黒い岩壁の建物から外に出る。ふと後ろを振り返れば。そこには黒い囲いに囲まれた扉が見えつつも、しかしその上に通常の岩肌が見えたのだ。
「どうなって……?」
「ここは神の祠だから普段は誰も入れないように封をしてジャミングしてあるんだ」
祠……確かにその言葉の似合う場所だ。
「だがお前は俺の眷属だからここに入口も見えるんだ」
「そう言うことだったんですね」
だんだんと平静を取り戻してきた自分がいる。
「そうそ。こう言う祠や神殿は太古、その持ち主の神が認めた人間なら入れていたようだが……外にはそうじゃない人間もいる」
欲深いものはどこの世界にもいるものだ。
「だから持ち主の神の眷属や加護を与えたものにしか入れないようになった」
「何か事件があったんですか?」
「黒魔竜の話をしたろう?」
「はい」
「天は黒魔竜と皇天竜をとある人間に任せようとしたのだが、ずる賢い人間が横から奪い取ったことで悲劇が起きた」
「……皇天竜も?」
黒魔竜だけではなかったことに引っ掛かりを感じる。
「皇天竜は天界で悪さばかりしていたから反省させるために卵に戻された上で地上に送られた」
悪さばかりって、どうして……。
「さらに黒魔竜はその特性から天界では生きづらいが地上でならばと卵に戻され地上に送られた」
「特性……」
「そう。黒魔竜は暴食の特性を持ち何でも食らい尽くす。だが地上には天界と違って旨いものがたくさんあるから旨さがその暴食の暴走を抑えるとみなされた」
「それってまるで天界には美味しいものがないような……」
「らしいぞ。だから地上からの旨い供物がありがたいらしい。女神からの受け売りだが」
「女神……ルオさんの口調からして何だか親しそうと言うか。対立はしていないんですか?」
「対立しているわけじゃない。だが女神は人間の神であり、俺は魔族の神だ。だからこそ馴れ合いはできないし女神の領域で好き勝手し過ぎると苦情が来るんだ」
「そう言えば神殿でも苦情が来るって……」
「そうだな。でも女神は女神でできることをして俺にお前を投げたんだ」
「それは……」
「お前のステータス。俺に渡したいようにわざとそうしたんだ」
「雑草はそう言うことだったんですか!?」
まさかそう言うことだったなんて。
「でもエリオットは女神の加護を得た勇者なんですよね」
あんなエリオットに勇者を授けるだなんて。
「勇者となったからと言って加護を授けるかどうかは女神の自由だよ」
「だからエリオットは女神の加護を得られるとは限らないってことですか」
「そ。だからそれでも勇者とするしかなかったのなら女神なりの事情があったのかもしれないが」
「詳細は分からないってことですね」
「まーな。それは女神の領域だ。アレが何も言ってこない以上、今はノータッチでいいのだろう」
「それじゃぁ……これから俺はこの世界で何をすれば」
何故か急に放任されたような感覚に襲われる。
「そうだな……まずは」
ルオさんが顔を上げればザクザクと草木を分けながら歩いてくる人影を見やる。
「アル、みなは」
「野営の準備なら出来てる。そっちも終わったんだ」
アルさんは俺の腕の中に抱かれた卵を見てくすりと笑う。
「あの……アルさんは」
「アルも俺の眷属だよ。元人間の魔人だ」
「……人間ね。それも微妙なところだけど」
アルさんが苦笑する。
「お前は人間だったよ。女神からステータスを一度はもらったのだから」
「そうかねぇ。人間たちはそうは思わなかったようだけどね」
……それはどういう意味なのだろうか。
「どちらにせよ、今は俺の眷属なのだから」
「それもそうだね」
ルオさんの言葉にアルさんが頷く。
「さて、移動手段と言えば飛行スキルや転移魔法もあるが。ロジー、お前は外の世界を見たくはないか」
「それは……はいっ」
異世界転生してこの方、俺には自由はなかった。外の世界だなんてステータス開示をした神殿くらいしか知らなかった。
「なら少しだけ外の世界を見ながら帰ろうか。この世界を見て様々なことを知りながら歩くのもいいんじゃないのか?」
まるでそれが俺のやることのような。
「主として眷属を導くのも役目だ」
ルオさんは何と言うか、親のような兄のような感覚のするひとだ。主……と言う言葉は前世の感覚上しっくり来ないが。でもどうしてかかけがえのない存在だと言うことは分かるのだ。
「それが本能で分かっているのなら今はそれでいい」
ルオさんが優しく微笑んでくれる。俺はこのひとに拾われて本当に良かったと思えるのだ。
野営地に案内してくれるアルさんに続けば、やがてテントのようなものが見えてくる。
「お待たせ。ルオを連れてきた。それと……」
アルさんが俺を見る。
「ロジーだよ」
ルオさんがそう告げれば野営地で待っていたらしい2人が立ち上がる。
「私はルシル。あなたと同じルオさまの眷属の魔人です。それから彼女は……」
そう告げたのはダークブラウンの髪に白目部分が黒、黒目部分が紫の青年で瞳孔は縦長である。
頭からは魔族角が伸びていた。
そして彼は次に自分の隣にいる少女を紹介してくれる。俺と同じくらい……いや、ちょっとだけ年上だろうか?紫のロングヘアーに魔族角、金色の瞳の少女だ。そして後ろからは竜の尾が伸びる。
「レベッカです。よろしくね」
レベッカがふんわりと笑む。彼女もルオさんの眷属だろうか?
「彼女は眷属ではないよ。でも可愛い子には旅をと言うだろう?俺と一緒ならと彼女の両親から許可が出たから、こうして旅に同行したんだ。彼女は魔竜系の魔族だ」
「……俺と同じ?」
「そうよ、同じ魔竜よ」
「そっか……っ」
何だか親近感が沸くなぁ。あれ……でも魔竜?何か頭の中で引っ掛かるものがあるのだが。
「さて、早速ロジーくんも戻ったことですし……本日はここで野営の準備を整えたので、夕飯にしましょうか」
「そうだなぁ、ルシル」
ルオさんがこくんと頷く。
「肉ならルオを待っている間に見付けといたから」
そう言うとアルさんが何もない空間に手を突っ込んだ。
「それってマジックボックスってやつですか!?」
「よく知ってるねぇ。ロジーも魔人なんだからすぐに使えるようになると思うけど」
魔人って何でもありなのか?
「魔法に関することならな。あと身体も頑丈になってる」
ルオさんが教えてくれる。
「ロジーのマジックボックスは……アル、後で設定してやってくれ」
「うん、構わないけど」
マジックボックスって設定するものなのか。
「空間魔法が得意なものがいれば構築設定してもらえる」
「私もアルに設定してもらったのよ」
レベッカが教えてくれる。
「そうなんだ……!」
「そうそ、でもまずは腹ごしらえ」
アルさんはそう告げるとマジックボックスから狩ったと見られる獲物を取り出す。
さすがは異世界。獣であることは分かるが前世にはいない特徴を持っている。
「あれは魔物だ」
「魔物って食べれるんですね、ルオさん」
「そうだな。獣以外にも珍味と言われる魔物はたくさんいるからなぁ。それとロジー」
「はい、ルオさん」
「お前……肉を捌くのには耐性あるか?」
「え?」
ルオさんが指差した方向を見やれば。
「マジックボックスにいれると時間が止まるから便利だよねぇ。今から血抜きでも全然イケる」
アルさんがそういうと容赦なく魔物にナイフを入れて捌いていく。
「ひぅんっ!!?」
前世日本人の感覚からするとグロおおおぉっ!!
「ロジーったら苦手なの?」
うぅ……レベッカすら平気そうなのに。さすがはこの世界育ち。異世界ファンタジーでやんわりとぼかされている部分にも普通に耐性があった。
いや俺もなのだけど、前世の感覚もあるからなぁ。しかし……グロいものは嫌でも見させられたしそう言う環境にいたのだ。
「だ、大丈夫」
さすがにこの世界で生まれ育つとな。異世界転移や憑依と比べれば腹は括られる。
「ロジーもいずれは覚えないとねぇ」
アルさんの言うとおり普通に店で肉を買えるほどの生活はしてこなかったし旅をする以上はやらねばならないのだろうな。
「意外と肝が据わっていて安心したよ」
「あはは……」
ルオさんが褒めてくれるのであれば、今までの地獄のような日々も決して無駄ではなかったのだと思える。あんな日々はもう二度とごめんだが。
ふと、腕の中で卵がコツコツと動いた気がしたのだが。もしかして俺の心の声に……いや、まさかな。でもどうしてか同意してくれたような不思議な感覚がしたのだ。
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