地雷系、孤独極めて終焉系女子に。
濃紅
第1章 終焉系が生まれるまで
第1話 なんか勝手に召喚されたんだけど???
王都地下、旧儀式場。
本来なら今日、ここで火が灯る予定はなかった。
勇者召喚は三日後。人も、準備も、すべてを揃えてから行う――それが人間側の計画だった。だから今、儀式場にいるのは巡回の兵と、結界維持のために残っていた下級術師だけだ。
そのはずだった。
「……魔素反応?」
術師の一人が顔を上げた瞬間、床に刻まれた召喚陣が淡く光った。
誰も起動句を唱えていない。供物も置いていない。なのに、陣が“反応した”。
「馬鹿な、まだ準備段階だぞ!」
兵が走る。だが間に合わない。
光は一気に増幅し、空間が引き裂かれる感覚が走った。
――その直前、天井の梁の影で、黒い影が動いた。
(やばい、起動した)
魔族の斥候は舌打ちした。
本来の目的は破壊だ。勇者や聖女が呼ばれる前に、召喚陣を使い物にならなくする。それだけだった。
だが、壊し切る前に“条件未満”で儀式が走った。
(こんなの、聞いてない……!)
影は即座に撤退を選ぶ。
何が出るか分からない。分からないものには、関わらない。
それが魔族の、そしてこの世界の常識だった。
次の瞬間、光の中心に――人影が落ちた。
少女だった。
剣も杖もなく、魔力の気配も薄い。
黒を基調に、どこか甘い色味の服。場違いにもほどがある。
「……何者だ!」
兵の一人が叫び、反射的に槍を構えた。
正体不明。勝手に発動した召喚。誰の管理下にもない存在。
――不審者以外の何だというのか。
「本来なら……!」
術師の声が裏返る。
「本来なら、ここに現れるのは勇者か、聖女のはずだ……!」
少女はきょろきょろと周囲を見回し、自分の服を一度引っ張って確認した。
それから、困ったように小さく笑う。
「……いや、絶対違うよね」
その軽さに、場の空気が一瞬止まった。
「敵だ!」
「拘束しろ!」
命令は短かった。
兵は一歩踏み込み、ためらいなく槍を突き出す。
刺突。
最短で、確実に、殺すための動き。
「――っ、キャッ!」
少女の喉から、反射的な声が漏れた。
槍の穂先が胸元へ――
一拍。
兵の腕に、確かな手応えが伝わるはずだった。
ぱき、と軽い音がした。
弾かれたのではない。折れたのでもない。
金属が、意味を保てなくなったみたいに、粉々に崩れ落ちた。
床に残ったのは、灰のような破片だけだった。
「……は?」
兵は呆然と、自分の手元を見る。
少女も同じように、胸元と床を見比べていた。
「……え?」
勝者の声じゃない。
ただ、空気を壊してしまった人の、戸惑いの声だった。
術師が震える声で呟く。
「……攻撃、していない……?」
だが現実はそこにある。
攻撃は通らず、武器だけが消えた。
誰もが理解した。
これは勇者でも、聖女でもない。
測れない。
定義できない。
未来が確定しない。
「あり得ない……!」
誰かがそう言った。
隔離命令が飛ぶ。
兵たちは距離を保ったまま、少女を囲む。
少女は慌てて両手を上げた。
「え、待って待って。
あとちほんとに何も――」
言葉が止まる。
自分でも、何が起きたのか分かっていない顔だった。
警鐘が鳴り始める。
勝手に始まり、勝手に壊れた召喚。
人間側に残ったのは、説明不能な“結果”だけだった。
◇
……いや、ほんとに何これ。
さっきから視線が痛い。
知らない人たちに囲まれて、武器向けられて、怖すぎ。
刺された瞬間は、正直びっくりした。思わず声出たし。
でも同時に、変に冷静な自分もいて。
(あー、でもこれ、
こういう展開だと即死しないやつだよね)
って考えてた。
そしたら槍が壊れた。
意味分かんない。
周りはめちゃくちゃ動揺してるけど、
こっちはそれどころじゃない。
だって――
(今日、コンカフェ予約してたんだけどなー……)
悪いことしちゃったな。
でも、それが一番気になってる時点で、
あとちも大概だと思う。
責任はどう見ても、
こっちの人たちだけど。
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