写真を撮る日まで

春秋花壇

写真を撮る日まで

写真を撮る日まで


祝われなかった日を

わたしたちは

黙って通り過ぎてきた


白いドレスも

花束も

拍手もなく

役所の窓口で

名前が並んだだけ


それでも

あなたの指が

少しだけ震れていたことを

わたしは知っている


夜勤明けの朝

コンビニの光に

二人の影が重なる

それが

いまの家族写真


「いつかね」

そう言って

貯金箱に落ちる

小さな硬貨の音

それは

希望というには静かで

誓いというには

生活に近すぎる


超高級老人ホームで

誰かの最期を見送るたび

思う

祝福は

始まりにだけ

必要なものじゃない、と


名前を呼ばれること

手を握られること

今日も一緒に

帰る場所があること


それだけで

結婚は

毎日

更新されている


写真を撮る日まで

わたしたちは

生きる


飾られなくても

語られなくても

ちゃんと

愛している証拠を

今日も

一日分

重ねながら


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