第6話 人形師の葛藤
ミランダさんのお店から必要な布地を購入し終えた私たちは、
ドールハウスに戻る。
「さて、始めますか…ライスター様はどうなさいますか?」
「少し作業を見ていっても?」
「構いませんが、面白くはありませんよ?」
彼は椅子に座り私の様子を見つめる。本当に作業を見ていくつもりのようだ。
面白くはないと思うのだが。
私は、広い机の上に紙を広げる。人形を作る際に、いつも私がやることだ。
広大な白紙の地図に人形製作までの案という道標を書き出す。
これが私の思考整理なのだ。
送る相手は伯爵令嬢。人形が大層好きらしい。
しかし好みはわからない。シヴァルツ伯爵の娘ということは髪や目の色は彼と同じだろう。人形の肌は白い方がいいだろうか。服は?
装飾品は多い方がいいだろうか。色は何色をベースにしようか。
…まずい、何も決まらない。不確定要素が多い故、好みもわからない。
ライスター様に聞いても好みはよくわからなかった。
思考が止まった時はどうすることもできない。やはり、根本的解決をするしかないのだろうか。
「ライスター様、私がミスレア伯爵令嬢に会うことは可能でしょうか」
思い切って、私はライスター様に提案してみる。私が思いつく最善策がこれだ。
ライスター様は、驚きつつも考え込む。
「恐らく伯爵様は許可をお出しになるだろうが、お嬢様が会ってくださるかどうかは正直わからない」
「そうですか…しかし、このままでは製作が難しいです」
正直に打ち明けると、彼は眉間に皺を寄せた。
「一度伯爵様に伝えてみる」
「助かります」
「人形師は意外と、真面目に働くんだな」
いきなり彼はそう言った。意外に、とは失礼だが。
しかし真面目そうに見えない、ということに反論はできない。
このボサボサの髪は手入れされていないのが見てわかるし、
埃が溜まっている作業場。
真面目な人間が経営しているとは思えないだろう。
「失礼ですね、随分と」
「すまないな。そう見えないもので」
反論できないのが少々悔しい。
「正直、貴方を信用してはいなかった」
「え、本当に正直におっしゃいますね」
「自分の身なりに、店の装飾にも気を遣えないものが、素晴らしい仕事をできるとは思えないからな」
まあ、間違いではない。事実、人形が飾ってある棚以外、物がごった返している。人形は売り物故に、綺麗にしているが。
「だからすまない、正直侮っていた。しかし君は素晴らしいな」
柔らかな笑みを、私に向けるライスター様。
「相手は伯爵様、うまくやれば金を搾り取れるだろうに、君はそうしなかった。適当に良い布をあしらい、良い装飾をつける。それだけでいい値段になるのに」
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