異世界猫は約束の地を目指す。〜猫による現代ダンジョン攻略配信!〜
和泉 弘幸
第1話 冒険猫キトラ
「ニャーン。今日から短期間だけどダンジョン庁の公認の冒険猫をすることになったキトラですニャ!少しの間だけどよろしくニャン♪」
キジネコが浮遊するカメラに向かってあざとい挨拶をする。
どこからどう見ても立派な猫で喋る以外は完全な猫にコメント欄が大きくざわついた。
ダンジョンという常識を覆すものが突然現れたファンタジーな世界になっても、猫が話すだけではなくダンジョン配信をするというのは視聴者のド肝を抜くのには十分なインパクトがあった。
それに前もってしておいた告知と下準備のおかげでどんどん伸びてあっという間に同接1万を超える。
"にゃーん!!"
"猫ちゃん!?"
"本当に話す猫だ!?!?"
"猫ちゃんかわヨ"
"あの色んな配信者の媚び売ってた猫?"
"手当り次第に配信者に映り込んで話しかけてたマナー最悪のニャンカス"
"猫にマナーとかwww"
"猫が喋った!?"
"こいつ猫かぶってる人間だろ"
"猫は話すだろ?アイツら人間の言葉分かるぞ"
"ダンジョンならモンスターだろ"
"これ犬鳴ワンパンしたバケモンじゃん"
"めちゃめちゃ危険なやつだろ"
"普通に考えて変化してる人間か使い魔的なのかテイムされたモンスターだろ"
"まだ人語を話すモンスターも使い魔も変身系のスキルも確認されてないゾ"
"ギルドは何を考えてこんな得体の知れないやつ公認したんだ?"
"そもそも公認とか今まで無かっただろ。なんでいきなり猫なんて公認するんだよ"
"ワンカス嫉妬してて草"
"犬畜生が見苦しいにゃあ"
"リード見えてますよお犬様"
様々な反応だが猫は動じない。
お猫様にとって人間の反応など気にするだけ無意味だからだ。
「え〜とにゃんだっけ?あ〜そうだったニャ。この配信では概要欄にある通りダンジョンに出現するモンスターを解説しながら叩きのめす娯楽チャンネルとなっておりますニャ」
隠す気もなくガン見でカンペを読んで説明をする。
当然コメント欄はツッコミの嵐だがどこ吹く風である。
「またこの動画の収益は半分がキトラに入って、残り半分はダンジョンで被災された方や動物愛護団体に寄付されることになってるニャ。それじゃ一方的に話すのは飽きたのでさっさと進めていくニャ」
冒険者組合、通称ギルドと呼ばれる組織から用意されたカンペの内容を読むとキトラは話すのを飽きたと言わんばかりに早足でダンジョンに潜る。
ダンジョン。それはある日、突然地球に現れた洞窟状の不思議な場所。
そこではファンタジーとしか思えないモンスターという別世界のような生物が現れ、命の危険はあるがモンスターから取れる魔石というものやモンスターが落とした品や宝箱から出る品はエネルギー不足解消や資源として役立て、日本だけではなく世界を支えている。
ダンジョンに入ることを生業としている者を冒険者と呼び、非常に危険な仕事だが国は推奨しており、成功すれば莫大な財産を築くことができる。
日常生活でもダンジョンに入ってレベルが上がった経験の有無は身体能力に著しい差を与えるために入るものは後を絶たない。
ちなみにダンジョンや冒険者たちを管轄するのがダンジョン庁であり、その下部組織が
そんな危険な場所に1匹の猫が縄張りを散歩でもするような気軽さで入っていく。
コメント欄もこの行動に視聴者は心配する声があがるがそれはすぐ掻き消されることになった。
「おっ!ゴブリンだニャ!あいつらの説明は要らにゃいだろしさっさと倒すニャ」
ゴブリン。ファンタジーで雑魚敵としてよく出てくるお馴染みの小さい人型の緑色をしたモンスターだが、棍棒やナイフを使う子供くらいの大きさが生物が殺意を持って襲い来るとなかなかに恐ろしい。
そのため駆け出しの冒険者は意外と苦戦したりするのだが、キトラは素早く近寄りジャンプするとニャッ!と目にも止まらぬ速さで猫パンチを繰り出した次の瞬間にはゴブリンだったものがさらさらと粒子になって消え失せた。
"ふぁっ!?"
"えっえっ?何が起きた!?"
"ゴブリン瞬殺で草"
"ファーーーこれ人殴っても余裕で死ぬだろ"
"猫ちゃんつおい、、、"
"まあレベル高いやつが雑魚殴ると基本こんな感じだし、高レベルなのは現れた時から分かってたし"
"こんなの見たらもう猫見ても近寄れなくなるじゃねえか"
「さてどんどん行くニャ!視聴者は酔わないように注意ニャ!」
そう言ってキトラは駆け出す。
通常の猫ですらかなり早く、四足歩行で地面が近いために視点カメラで見ると酔いやすいのに、高レベルのキトラが早めのスピードで走るとそれはもう大変なことになった。
画面の前の視聴者のかなりの数が画面酔いしてコメントが一気に減る。
「人間はか弱くて大変だニャ〜。人間が猫に合わせるべきだけどキトラは話が分かる猫なので多少は人間に合わせてやるニャ」
コメント欄が阿鼻叫喚で染まっていることに気づいたキトラはやれやれと言った顔をしてスピードを落として歩き始める。
ナチュラルなお猫様の思想だが、お猫様であるために仕方ないことであった。
真に責められるべきは猫に配信などさせているダンジョン庁の上層部なのだ。
ちなみに視聴者は知る由もないことだが、その上層部はダンジョンでしっかりと経験を積んでいる者が多く、レベルが高く、強靭な三半規管を持つために視覚情報のズレを少なく平気な顔して猫を眺めている。
「むっ!スライムニャ。これも有名なモンスターだニャ。弱いとはいえ油断してたり、面制圧の手段がないとグロい死に方をするので注意ニャ。実際初心者〜中堅は入ってすぐに不意打ちされたり、水辺でクソデカスライムに遭遇して全滅、撤退時に出口が見えて安心したら上から落ちてきて死ぬ事故は定期的に聞くから注意するニャ。家に着くまで気を抜かないことニャ」
"スライムかわヨ"
"はぁ?猫ちゃんの方が可愛いが?"
"出たな。面制圧しないと事故死するクソモンスめ!"
"あんなに可愛いデザインにして油断させた鳥○明先生を許すな"
"鳥○明先生「編集のマシ○トってやつが全部悪い」"
"上層にいるやつはぷにぷにして可愛いから許せる。水辺の奴らホント許せない"
"こいつら単細胞生物の集まりだから核ないのカスすぎる"
"こんなヤツらに魔法使いたくないし遅いから逃げる方がいい"
スライムは球体でぷにぷにとして可愛らしいとも言える見た目に反してその厄介な特性でヘイトを集めるモンスターを前にキトラは背を向けた。
そして後ろ足で砂を蹴ると魔力を纏わせた砂が散弾銃のような威力で放たれて苦戦することなくあっさりと倒す。
「スライムは結構面倒だけどこうやって魔力を込めた砂を投げつけたり、盾や岩で押し潰して面制圧したら楽勝だから初心者は片手盾ぐらいは持ってると安心できるニャ」
"はぇ〜勉強になる"
"はぇーすっごい"
"ほぇ〜"
"【悲報】視聴者たち猫以下の知能だった"
"簡単に魔力込めるというけど道具に纏わせるの普通に難しいんだが?"
"ダンジョンの壁や砂は魔力を纏ってて性質上、魔力を通しやすいからすぐ出来るようになるよ。ベテラン勢も砂に魔力纏わせて投擲して目潰しとかしてるし使えると便利だよ"
"猫ちゃんかわヨ"
感心するコメント欄を見てキトラは知識の遅れを実感する。
キトラの常識では野生のスライムなど子供が的当てにして遊ぶモンスターで先程の述べた通り、たまに事故があるがしっかり警戒していれば問題ないモンスターでヘイトを集めるモンスターでは無い。
突如ダンジョンが現れて10年と少し。
この程度の知識しかないようではダンジョン攻略は危険性が高く、キトラが異界の知識を持つとはいえ偉い人たちが、猫である自分に知識を広めるための配信を依頼をするのも理解出来た。
キトラはこれも人助け、世界のためと猫でも分かるように説明することにしたのだった。
そうして出来るだけ優しく解説をして、配信開始から1時間が過ぎた辺りでキトラがスンッとした顔で立ち止まる。
"どうしたの?"
"何かトラブル?"
"その顔助かる"
"はぁーーかわヨ"
「飽きたニャ」
"草"
"草"
"まあしゃーないw"
"猫だからね"
"もう終わりだ猫の配信"
"1時間も寝ないで良くやってくれたよ"
"話せるし強いから忘れてたけど猫だもんな"
"これだからニャンカスは、、、"
"ゴブリンの棍棒やるからワンカスは犬小屋に帰りな"
「もう本当に飽きたし寝たいけど、こういうのは終わると中途半端に辞めると勇者に怒られたから、地下2層への階段まで行って終わることにするニャ」
"分かったニャ"
"しょうがないにゃあ"
"また配信楽しみにしてます!"
"ん?今勇者って言った?"
"勇者って誰だ!?"
"勇者なんてスキルはないよな?"
"この猫本当に何者!?"
コメント欄がざわつきキトラも自らの失言に気づくが説明するほどでは無いので放置することにした。
「面倒だから勇者の説明はしないニャ。そのうち話すかもしれないけど期待せず待つニャ。あっ次の階層へ降りれる階層があったニャ!!これで終われるニャ!!それじゃまた見てくれニャ。え〜と各種SNSでダンジョン庁が発信してくれるのでチャンネル?登録とそちらのフォローもよろしくニャン♪」
言い終わると即座に配信を終える。
そして身体を伸ばしながらニャ〜〜と鳴くとギルドに戻る。
今日は報酬とは別ににゃ〜るが貰えるので、寄り道も昼寝をすることもなく早く帰ることにした。
この世界に来て1日目でギルドを脅して3日目で国の重役たちを会うことになり、4.5日目はダンジョン配信者たちの配信に映り込み媚びを売るとたくさん働いたのだ。
勇者を救うためとはいえ、流石に疲れたので今日明日はゆっくりゴロゴロしようと決めてキトラはダンジョンを出た。
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