第15話
――雪 「回想…透明に近い」
芽衣子を好きになった理由
最初は、気にも留めていなかった。
教室の端で、
いつも静かに座っている女の子。
それが、芽衣子だった。
目立たない。
声も大きくない。
だから、
「誰にでも優しい俺」の視界から、
いつも少しだけ外れていた。
でも、
ある日、気づいた。
芽衣子は、
誰も見ていないところを、
よく見ている。
黒板の文字じゃない。
先生の顔でもない。
人の仕草。
ちょっとした癖。
笑う前の、ほんの一瞬の間。
それを、
スケッチブックに残していた。
——そんなところまで、見てるんだ。
後輩やクラスメイトに囲まれて、
無意識に「いい人」でいようとしていた自分より、
芽衣子の視線は、ずっと正直だった。
話しかけたとき、
芽衣子は慌てて目を逸らした。
でも、その直前まで、
ちゃんと、俺を見ていた。
真剣な眼差しを向けてくれてたことを気づいた。
その視線が、
不思議と、嬉しかった。
「優しいね」
そう言われるたびに、
どこか、居場所を失う気がしていた。
でも、芽衣子は、
何も言わなかった。
評価もしない。
期待もしない。
ただ、
描いていた。
——俺を、
“いい人”としてじゃなく。
汗をかいたままの横顔も、
ミスしたあとの間も、
強がって笑う瞬間も。
芽衣子のスケッチブックの中で、
俺は、俺のままだった。
だからだ。
近づくほど、
怖くなった。
彼女の目に映る自分を、
失いたくなかった。
誰にでも向ける優しさじゃ、
届かない相手だと、
どこかでわかっていた。
——好きになった理由?
たぶん、
芽衣子だけが、
俺を“描こう”としてくれたからだ。
言葉じゃなく、
線で。
評価じゃなく、
まなざしで。
その静かな好意に、
気づいたときには、
もう、
引き返せなくなっていた。
透明に近いその色は、どんな色にでも染まりそうで…怖かった。
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