第3章「大学生活の中で幽霊と過ごす日常」
朝の光がカーテン越しに差し込む。
未来は布団の中で目を覚まし、昨日の出来事を思い返す。
陸橋で出会った黒髪の男子――悠斗。
目を閉じると、あの落ち着いた声と柔らかい微笑みが胸に残っていた。
「…夢じゃないよね…」
布団から体を起こす未来。胸の奥で昨日の恐怖と不思議さが混ざり合い、心臓が少し高鳴る。けれど、怖さよりも期待感が勝っている自分に気づき、自然と笑みがこぼれた。
台所では悠斗が静かに立ち、未来が朝食を用意する。
「焼き加減、大丈夫かな」
「うん、でもちょっと焦げてるかも」
未来は笑いながら卵を返す。悠斗は微笑み、少し後ろに下がって見守る。
「君の作るご飯、初めてだけど美味しそうだね」
未来は頬を赤らめ、自然に答えた。
「ありがとう…幽霊なのに、そんなこと言うんだ」
朝食を終え、未来は大学に向かう。陸橋で悠斗に出会うと、二人は自然に並んで歩く。
「授業、何からだっけ?」
「経済学かな。でも今日は教授の話が長いんだ」
悠斗は静かに頷き、周囲の学生に気づかれないように未来の横で歩く。
未来は心の中で思う。
――幽霊と大学に行くなんて普通じゃ考えられない。でも、自然すぎる。
授業中、未来はノートに書き込みながら、時折横目で悠斗を感じる。
「静かにしてね」
悠斗は微笑み、存在を控えめに示す。誰にも見えないのに、確かにそこにいる感覚が不思議だった。
昼休み、未来は親友の田辺彩乃と食堂でランチを取る。
「未来、最近楽しそうだね」
「うん…ちょっとだけ不思議なことがあって」
彩乃は眉をひそめ、目を丸くする。
「不思議なことって…幽霊とか?」
未来は一瞬ためらったが、小さく笑った。
「…うん、でも怖くないの」
彩乃は驚いた表情を見せるが、未来の笑顔に安心する。
「そっか…まあ、未来が楽しそうならいいけど」
放課後、未来は悠斗と図書館へ向かう。
「静かだし、勉強にはぴったりだね」
「うん。でも君がいると楽しい」
未来は少し照れながら座る。悠斗は隣で静かに佇む。
ノートに問題を書き込む未来に、悠斗が小さなメモを差し出す。
「ここ、ちょっと間違ってるよ」
「えっ、幽霊なのに、細かくチェックするんだ」
未来は笑いながら訂正する。
二人の間に、日常の中に溶け込む非日常が自然に流れる。
夜、未来は家に戻り、悠斗と夕食の準備をする。
「今日はカレーにしようかな」
「いいね。僕も手伝うよ」
幽霊の手は触れないはずなのに、気配を感じながら未来は鍋をかき混ぜる。
「やっぱり普通の生活とは違うな…」
「でも楽しい。悠斗がいるから」
布団に入り、未来は今日の出来事を振り返る。
授業、友人との会話、図書館での小さなやり取り…
幽霊との日常は不思議だけれど、現実と同じように心地よく感じられた。
「明日も陸橋で会えるかな」
未来は眠りにつきながら悠斗の気配を感じる。
夢の中でも、二人は陸橋を歩き、笑い、話す。
非日常が自然に日常に溶け込む――この奇妙で温かい時間は、未来にとってかけがえのないものになっていた。
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