短編セルフアンソロジー「魔眼」
齊藤 車
炭鉱のカナリア
お産があると、小さな悪魔を檻に入れて妊婦のそばに置いておく習わしがある。生まれた赤子に悪魔が憑いていると炭鉱のカナリアのようにその悪魔が騒ぐからである。
ある村で、悪魔祓いの男と一緒になった村娘が子を授かった。
習わしの通り小さな悪魔を檻に入れ、村娘のそばに置いた。小さな悪魔は騒がなかった。
お産が始まると、産声とともに小さな悪魔が檻の中で騒ぎ始めた。集まった村人たちがざわめいた。
そこに父となる悪魔祓いの男が村に帰ってきた。小さな悪魔は男の気配やまとった聖水におびえたのだろう。村人の誰かがそう言った。
訝しむ者も中にはいたが、男には村を救ってもらっている恩がある。そういうことになった。
赤子は女の子だった。小さな悪魔は焼いて殺してしまった。
赤子が成長するにつれて母の不調が多くなる。父は仕事で殆ど村に戻らない。赤子は育って少女になった。五つを迎えるころには、母はもう起き上がることもままならなくなっていた。
村人たちに不安が広がる。
数年後、とうとう母が亡くなった。村人たちが帰ってきた父に詰め寄るが、少女が悪魔憑きだと認めない。
少女と暮らすようになった父も日に日に顔色が悪くなる。少女が世話する麦だけが半分以上枯れてしまう。
村人たちは二人を村から追放することにして、農具を持って二人の家に押しかけた。
皆が争う姿に少女は思わず目をつぶる。再び目を見開くと、父もろとも村人たちが灰になって崩れていった。
集まって来る村人たちも次々と灰になって崩れてしまった。
少女は怖くなり、森の中へ駆け込んだ。
あたりの草木が枯れていく。小鳥たちも灰になる。
息を切らして走り続ける少女は、やがて気がつく。視界に入れたあらゆるものが死んでいくことに。
少女は落ちている木の枝を拾い上げ、二つに折った。
そして、それを両の目に深々と突き刺した。
――もう、何も
騒ぐ者はいなくなった。
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