名前

青林あおばやし菫青きんせいだ。今日からよろしく」

 人懐っこい笑みを浮かべた菫青の目の前には、小柄で色が白く痩せた男。

「……よろしくお願いします。いずみ晶太郎しょうたろうです」

 菫青は、この初対面の男の名を既に知っていた。

 自分が通う学校に、優秀な成績で入学した者の名前が貼り出されていた。

 泉、晶、と続けて目にしたことで、水晶すいしょうという単語が頭に浮かんだ。

 実際に会って、ぴったりだと思った。

 透き通ってしまいそうな肌の白さに、鋭い眼。

 水晶を連想するにふさわしい美青年――


「名は体を表すんだなって、少し驚いたよ」

 二人は何かの会話の流れで、初めて会った日を振り返っていた。

 菫青がしみじみと昔を懐かしんでいると、水晶も当時の記憶がよみがえった。

「俺も、お前の名前は先に知ってた」

「そうだったんだ」

「一緒に住む相手が気になってな。多分、スミレの文字に引っ張られたんだな。さぞ小さくて可愛らしいのが来ると思ったが……」

 横目で菫青を見る。

「デカくて浅黒い熊みたいな奴で内心驚いた。あのことわざは嘘だったのかと」

「僕だって、水晶がこんなに口が悪いのが意外だったよ」

「混ぜ物が多くてな」

 ねてみせた菫青だったが、当時に思いをせると水晶と笑った。

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