第一部 閑話3 セレスの思考:未完成を選ぶ

 理論として見れば、彼の力は危うい。


 再現性は低く、定義も曖昧。

 制御できるとは言いがたい。


 ――本来なら、排除対象だ。


 それでもセレスは、彼の隣を歩いている。


 理由は単純だった。


 彼は“分からないもの”を、切り捨てなかった。


 影もふ族を見たときもそうだ。

 恐怖と可能性を同時に受け入れ、答えを急がなかった。


「未完成であることを、恐れない」


 それは、学者として最も難しい態度だ。


 だから彼女は観測を続ける。


 研究対象としてではなく――

 一人の同行者として。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る