和み
「なんで今日は花村先生を診断室から出したんですかねぇ、御門先生。」
小林さんが、不思議そうに尋ねた。
「そうですね。
あの時の御門先生の目が、
『察してくれ』って言っている気がして。
莉菜さんは、もうカウンセリングが必要ない状態でしたし、
それなのに『カウンセリングをお願いします』って言われたので……。」
午前中の優しい日差しが、
カウンセリング室を穏やかな空間にしていた。
爽やかな緑茶の匂いと、桜の葉の香りが、室内にゆるやかに漂っている。
「まぁ、こうして花村先生と桜餅を食べながらお茶できて、ラッキーですけどね。」
そう言って、小林さんはぺろっと舌を出し、
いたずらっ子のように笑った。
しばらく、たわいのないおしゃべりが続く。
桜餅を食べ終えた頃、ふと心配そうな顔で小林さんが
「大丈夫かなぁ……御門先生。
桐山に、嫌なこと言われてないといいんだけど……。」
そう言って、彼女はお茶を啜った。
「そんなに面倒な方なんですか?」
思わず、そう聞いてしまった。
「桐山は、すっごく偉そうなんですよ。
いつも私たちのことを下に見ているって感じで、馬鹿にしてくるんです。
だから、関わりたくない人は距離を取って、近づかないようにしているんですよ。
……私も、本当は関わりたくないんですけどね。」
小林さんは気遣い上手だ。
だからこそ、なんとなく放っておけず、
これまであからさまに避けることはできなかったのだろう。
ガチャッ。
二人の楽しいティータイムの終わりを告げる音が、静かな室内に響いた。
診断室のドアが開かれたのだ。
小林さんと一緒に待合室へ戻ると、
そこには長椅子に座る桐山さんの姿があった。
その表情は明るく、
どこか角が取れたような、やわらかな雰囲気を纏っている。
(……響いたんだ)
私はそう感じ、
小林さんと目を合わせて、微笑んだ。
桐山さんは立ち上がり、小林さんに
「ありがとう。帰ろうか。」
と、そっと声をかけた。
小林さんは一瞬固まり、
「あっ、はい。」
と短く返事をする。
そして私の方を振り返ると、
「今日も楽しかったです。ご馳走様でした。」
そう言って、さっきのいたずらっ子の表情ではなく、
とても綺麗な笑顔を向けた。
「楽しかったですね、莉菜さん。
こちらこそ、ご馳走様でした。
……って、病院なのに『またお待ちしています』って言っていいんですかね?」
思わず一人でツッコミを入れると、
部屋中に、みんなの笑い声が響いた。
きっと桐山さんも、
私や小林さんのように
『自分らしい自分』に戻れる日が来るだろう。
そう遠くない未来で。
(本当に、すごいな。御門先生は。)
外では桜の花が、
高く昇ったお日様に温められ、
次の代へと続くように、
風に乗って巣立っていく。
「さっ、御門先生にお茶と桜餅をお出ししよう。」
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