転生悪役令嬢、タイムリープして世界を救う。多重イベントでお腹いっぱい。

木乃末わみつ

一話完結

ひとりになりたくて講義に向かわず人のいない方へ歩いていると、今一番、見たくない女が走って現れた。

私のことは目に入っていない。

視界を遮ろうと掲げた扇をつい、私の横を通り抜けようとするその女の目の前に差し出してしまった。


「きゃぁああ」


視界を奪われた女はその先の三段ほどの階段を踏み外し、廊下を転がって止まった。

何度注意しても学舎の中を走り回るのが悪い、目の前の私に気づかないのが悪い、どうせ第一王子が治療師を呼び寄せて直してしまうから気にする必要はない。

呻き声を無視して歩き去る。

なぜか足がガクガクしてきた。

本当に大丈夫なの?あのままじゃないよね?誰かに気づいてもらえる? そんな思いとともに知らない記憶が蘇ってきた。

今の子、ピンク髪のミーナってヒロイン? そして私、ベアトリス・ヴァリエールって悪役令嬢?

さらに心臓がドキドキしてはち切れそうだったけど、震える足でミーナのところへ引き返す。

そこには誰もいなかった。

自分で歩けるくらいには大けがではなかったんだろう。

ヒロインなんだから当然か。

ほっとしたら今度は自分の置かれた状況にぞっとした。

今の私の名前もヒロインの名前も前世の記憶には無い。

でもここは乙女ゲームの世界だ。

乙女ゲームはプレイしたことはない。

でも通勤電車の中で読んだweb小説には乙女ゲーム転生ものはよくあった。

たとえ魔法があるとしても便利すぎる世の中、なじみのある学園の風習、そして卒業を三か月後に控えたこの時期に発生したさっきのイベント。

間違いなくここは乙女ゲームの世界で、そして私は断罪される悪役令嬢。

何とかしなくちゃ。

誰もいない教室にたどり着き、ひとり考えを巡らした。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


次の講義へと向かう途中で診療室にこっそり立ち寄った。

診療室の防音はしっかりしているけれど第一王子の声が漏れてきた。

王子の側近たちの声もかすかに聞こえる。

誰にも見つからないようにそこから離れた。


学園は慌ただしい感じはしない。

やはりヒロインは私に気づいてなかった。

しっかりと目撃されていたなら、あの王子が暴走するのは間違いない。

ふと、こちらにやってくる治療師が目に留まった。

まだ呼んでいなかったの?医師だけで対応できる程度だったのかしら?


「あら、教会の治療師様よね。何かあったのかしら?」

「学生が怪我をしたため呼ばれました。。。」


治療師は高位貴族だと分かる私に軽く頭を下げただけ。私も名乗りはしない。これは学園の方針。でもどことなく何か言いたそう。


「まぁ、治療師様をお呼びするなんて余程のお怪我かしら?でもお急ぎではないご様子。万が一に備えてのことでしょうか?」


その後、双方名乗り事情を聴いたところ彼女で三人目の派遣なんだそうだ。

治療は最初の一人目で終わっている。

あとは薬を飲んで回復に努めれば、きれいさっぱり傷も残らず完治する。

なのに王子が教会との取り決めを無視してしつこく呼び出し困ってる。

王子の婚約者の立場で詫びを入れ帰ってもらった。

王子からの苦情はこちらに回すように言っておいたのでまた煩くなるだろうけど。

講義室に入るとちらちらと視線を感じる。

もう噂が広がっているみたい。

取り巻きのカトリーヌが近づいてきて「あの平民が階段から突き落とされたそうです」と言ってきた。

私は「そう」とだけ返した。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


お昼休みは貴族派のサロンで過ごす。

私の家を含めた三大侯爵家はすべて貴族派だ。

今の時代、貴族派の前に王族、王族派は力がない。


「王子様ご贔屓の例の平民を、ベアトリス様が階段から突き落としたという噂が聞こえて来ましたわ。ここで寛がれていてよいのかしら?」

「まぁ、そんな粗暴なことをベアトリス様がなさるわけないではありませんか?でもお早く手を打たれた方がよろしいかと思いますわ」


味方の中の敵、二人とも王妃の座は自分が相応しいと確信している。

でもここは乙女ゲームの世界。あなたたちの思うようにはならない。


「はぁ」


大きな溜息をついて二人をびっくりさせる。

こんなこと私はやらないものね。

周りの令嬢たちも隠すことなく視線を向けてきた。


「私はありもしない罪で婚約破棄をされるでしょう。そして王妃の座はあの平民のものになりますわ」


二人はそろって失笑した。


「王子の愚かな振る舞いを黙認しているということは、国王もその気なのですわ」

「あの特徴あるピンク髪を根拠にどこかの血統を捏造することくらいはやりますわ。そういえば」

「私があらゆる罪で裁かれたあと、偽証を理由にあなた方も断罪されますわよ」

「たとえ心の中では蔑んでいても、王妃となったミーナに跪くことに耐えられますか?」

「冤罪が晴れた後も、婚約者には戻らないことをみなさまに宣言いたしますわ」

「」「」「」


乙女ゲームの知識も使い、いろんな可能性を披露したら目が覚めたみたいで、顔を引きつらせながらみんな仲間になった。

よかった、皆がゲームのような考えなしの行動をしたら勝ち目はない。

最優先目標は達成だ。

でもまだ気を緩めちゃだめ。

その日、王子からの呼び出しはなかった。

お城に常駐している治療師に見せるためヒロインを連れて行ったそうだ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「皆の者、聞いてくれ! ベアトリス、お前との婚約の破棄を今ここに宣言する!」


パーティー開幕の宣言もせずに、いきなり婚約破棄宣言された。

王族派集団は拍手こそしないが「おぉー」という感じ。

貴族派は「しらー」としている。

そう、今このホールには、乙女ゲームらしくなく卒業生の親族も招かれている。

貴族派女学生主導で王族派女学生も巻き込み、卒業パーティーには親族を招きたいと生徒会にアピールした結果だ。

決定打は私が反対したこと。

それで王子が賛成した。ちょろい。

国王に目をやると無表情で王子を止める様子もない。共犯確定ね。


「婚約破棄は承りましたわ。それで?」


王子は一瞬きょとんとしたが私の強がりだと思ったのだろう、先を促すとヒロインの腰を抱き寄せ、胸を張って宣言した。


「喜ばしいことに、このミーナ・ツンデルが私の新たな婚約者となった。ゆくゆくは王妃となり私を支えてくれるだろう。大いに祝福してくれ」


王族派筆頭ツンデル家の養女になったんだ。

顔を赤くしたヒロインが王子を見てとても嬉しそうに微笑んでいる。


「そしてベアトリス、お前はミーナにずっと姑息な嫌がらせをしていただけでなく、階段から突き落として大怪我をさせた。王妃候補であった身でありながらそのような悪辣で凶悪な行為は許しがたく、我が国の貴族として相応しくない。よって貴様は貴族籍から除籍した上で追放処分とする」

「あら、まったく身に覚えのないことで糾弾された上に、そのような権限のない王太子から一方的に裁定されるなんて、この国はいつから無法国家になったのでしょう?」

「無論、後で正式に裁いてもらうとも。その前にお前の悪行を皆に知らしめ、今この場でミーナに詫びさせてやる」


そこからの王子の主張は可哀想なほどグダグダになった。

王族派学生に証言させれば貴族派学生が真っ向から否定する。

王子にすり寄らせた貴族派学生は、そういう意味ではありませんと証言を変える。

ヒロインの振る舞いがいかに常識から外れていたかを織り交ぜながら私も嫌がらせをしましたと申し出る者も多数。

三か月間、皆で準備に費やした成果だ。

その上、王子の側近たちの婚約者が次々と婚約破棄を宣言し始めた。

浮気者の婚約者によほど腹に据えかねていたのか、もう王子の巻き返しは無理だと判断して保身に走ったのか分からないけどナイスアシストよ。

ここで私のライバルたちの出番。


「わたくしの配下の者が、多少きつい指導をしたことはお詫びいたします。ですが素直に規律を受け入れていただければエスカレートすることもございませんでしたのに。王族派のみなさまも同じようにご指導されておりましたのでご理解いただけるものと存じます」

「わたくしもお詫びいたします。ミーナ様の行動があまりにも見識外であったため、学び舎で何が起こっているのか混乱して正常な判断が出来なくなっていたと皆、泣いて申しておりました。どうぞ寛大なご判断をお願いいたします」


敵の敵は味方と思っていたのだろう。

二人からの予想外の私への援護射撃に王子は何も言えなくなった。

国王は蒼白になって目をパチパチ。

ヒロインはようやく自覚が芽生えたのだろう。涙目になって王子に縋りついていた。


「王よ、此度の婚約破棄、娘が受け入れてしまった故、くどくどとは申しますまい。しかしながら神聖な契約をあまりにも軽々しく一方的に弄ばれるような扱い。国、への信頼が根底から揺らぎますぞ」


お父様の登場。

この人の説得が一番大変だった。

でも、こっちは命が懸かってるもの。

何にも知らないくせにという冷たい目で対応してやった。

我が侯爵家は強くなりすぎ、調整ばかりで実入りが少ない、お兄様の活躍の場を奪うな。など言いたいことを言って最終的に条件付きで認めさせた。

やるなら徹底的にということだ。


「先ほどよりの証言が誠であれば、新たなご令嬢は今後も火種となりましょう。ツンデルも軽率な縁組をなされた、いや失礼。謝罪いたします」

「口を慎め。ミーナはガデマイア朝の血を引く由緒正しい姫だ。ミーナの真意が分からぬ者の戯言など聞くに値しない。すぐにでも目の覚めるような功績を挙げ、皆が認めることは疑う余地もない」


ヒロインに矛先が向いた途端、王子が息を吹き返した。でも想定通り。


「ガデマイア朝?亡命を拒み最後まで戦い抜き滅んだ、あの誇り高き王族のことですの?」

「小さな王子や姫まで共に沈んだと聞きましたわ」

「『我らが無きこの地に平穏が訪れると思うな』実際その通りになっておりますわね」

「王子の婚約者がその子孫?ありえませんわ。どういうことですの?」

「まさか逃げ出した者がいるというのですか?そのようなことを公言すれな他国からも白い目でみられますわよ」


ゲーム的には正統な血筋で間違いはないのだろう。

私の断罪が成功していれば賞賛を受け王妃候補として認められたはずだ。

王子は口をパクパク、ヒロインは王子と私たちを交互に見ながら震えていた。


「ガデマイア家のご婦人方は輝くようなピンクブロンドと伝わっていますわ。ミーナ様のピンク髪では説得力がございませんわね」

「おのれ!すべてお前の画策だなこの下劣な悪女め!」


その通りよ。でも悪役令嬢です。

激昂した王子は側近の腰から剣を抜き取り、目を血走らせて私に向かって突進しようとしたが装飾でゴテゴテな衣服と靴では壇上からうまく降りられず前のめりに転げ落ちた。

手放し跳ねた剣が王子の首筋に傷をつけ血があふれてきた。

すぐに命を落とすほどではないと思う。


唖然、呆然、国王も口を開けて見ているだけ。

そんな中ヒロインが飛びだしてきた。

「誰かっ!治療師様を!なんで!どうして! ヒ、ヒール!」

ヒロインがヒールを唱えると王子が光に包まれ、あっという間に傷が修復され血の気もよみがえってきた。

聖女誕生だ。

ここで覚醒イベントなの? 階段落ちの治療が伏線なのね。

ヒロイン=聖女のパターンはよく知らない。

今の世界の聖女の立場は知っている。

素早く計算する。

大丈夫、可哀想だけど、聖女の血を守るために逃がされた者の子孫と肯定さえされなければ、今の落ちに落ちたヒロインに逆転の目はないはず。

ホールがざわつく。


「聖女誕生とはなんとめでたい」

「聖女を教会に預ければ、我が国の優位は計り知れません」

「王子には神官の才がございません。聖女の血を残すためにも正しき婚姻が求められます」

「娘よ、貴族としての務めだ。悪いようにはしないから我々に任せなさい」

「囲い込めば教会のみならず各国から非難を受け、聖女が治す以上に多くの血が流れかねません」

「な、何を言っている」

「アルフ王子様」

「心配するな!ミーナは私が何があろうと守って見せる!」


王子が力強くヒロインに誓ってみせると、王子の左手が輝きだし甲に紋様が浮かび上がってきた。勘弁してよ。


「あれは勇者の証し!」


王子の側近の一人が声を振り立てた。

王子の目は紋様に釘付けだ。

魔王でもいるの?いたわね、聖剣で封印された魔王が。

今思い出した。初代国王は勇者だ。

勇者とその仲間が魔王を封印し、凱旋したこの地で新たに国を興した。

魔王が復活して断罪チームが再び魔王を封印?失敗したらバッドエンド?このメンバーで立ち向かうの?


王子の手の紋様には見覚えがある。あれって召喚陣じゃないの?

魔法陣はほとんど使いものにならないため、はるか昔に廃れた技術だ。

召喚魔法は才能ある人にしか使えない希少魔法だ。

断罪イベント回避のため動き回った三か月間、私は癒しが欲しいのと魔法に興味があったので、時間を見つけてはモフモフを召喚するため召喚陣のお勉強をしていた。

小さくて可愛いだけのモフモフならいけると思ったの。でもまだ諦めてないわ。

王子のあの召喚陣は何を召喚するの?

一気に背筋が冷えた。


「見よ!神は私に勇者の証しを与えた。私が正しき者と認められたのだ。聖剣を得た暁には」

「王子を取り押さえて!早く!大変なことになるわ!」


令嬢らしからぬ声を張り上げて、王子に指を突き付ける。

お父様が目配せし大人が動いて王子を押さえにかかった。

私はテーブルクロスを引っ張り抜き、音を立て飛び落ちるあれこれを無視し王子の元へ駆け寄った。


「左手に巻いて!取れないようにしっかりと!」

「何をする!私は勇者だ!離せ!気でも狂ったか?」


王子が喚き散らす。私はその声に負けないくらいの大声で王に問うた。


「王よ!王子の手の紋様は召喚陣ですわ!今、王子が聖剣を召喚したら魔王の封印はどうなりますの!」

「召喚陣だと!」

「間違いないのか、魔王の復活なんて大変なことだぞ」

「国王様、勇者の紋様は召喚陣なのですか?」

「聖剣を召喚する者が勇者なのか?」


騒然となった。

とりあえず一旦危機は凌いだと思う。

乙女ゲームのストーリとして考えてみよう。

まず断罪イベントがあってめでたしの後に、なんかの聖女覚醒イベントで王子を助ける。

で、やっぱり聖女を守るために愛の力で勇者覚醒をして聖剣を召喚。

封印を解かれた魔王が復活。マッチポンプよね。

弱った封印を再封印するため聖剣が勇者を目覚めさせたとかの筋書きかしら?

そして魔王を封印するか倒してハッピーエンド。

二本目の聖剣なんで掟破りはないよね?

このまま王子封印でなんとかならないのかしら?


諸侯に詰め寄られた王は、気力も尽きていたこともあって王族の真実を話した。

たとえ封印されていたとしても人は魔王の傍に近づくことは出来ない。

聖剣を持つものだけが魔王と対峙できる。

魔王を封印した者は剣聖だ。

初代国王の召喚した聖剣を持ち、聖女からありったけのバフをかけられ見事封印を果たしたが、魔王の間近、聖剣から手を離せば命は果てる。

この国は聖剣の召喚士を勇者にして成り立った国だ。

それはいいんじゃないの? 聖剣大事だし。


絶対に聖剣を召喚させまいと、今や王子は縛り上げられ目隠に口枷、さらには左手を切り落とすかの相談まで始まった。

みんな召喚陣のこと知らないものね。後で教えてあげようかな。

しかし困ったわね、正解が分からない。

神のお告げとかないのかしら? 枢機卿とか呼ぶ?


うーうー唸っている王子の横で、ヒロインはぐずぐず泣いていた。

そのうち吐き気を催してきたのか手で口を押えてえずきだした。

気持ちは分かるわ。一度退場させた方がよいかしら?

と、いきなりヒロインの頭上に精霊が現れた。

今度は何よ!

精霊はキラキラ光る光の粒をヒロインに振り撒いたあと、こう宣った。


「聖女のお腹の子に大精霊様の加護を届けたでぴ。今より、えっと、十九年以内に世界樹の枝に巣くった魔蟲を倒すのでぴ。さもなくば魔蟲の子が世界に蔓延し皆滅びるのでぴー」

「お待ちなさい!」


むかつくじゃべり方をする精霊が消えそうな雰囲気を出してきたので慌てて呼び止めた。


「な、なんでぴ?」


聖女の妊娠とか、大精霊とか気になるけど二の次よ。


「魔蟲を倒すってどうやるのよ!」


私の言葉遣いも令嬢らしくなくなってきた。


「あんた誰だぴ?力を蓄えた運命の子が聖剣を持てば世界樹への道が開けるでぴ。後は戦って聖剣でグッサリやれば虫の息でぴ」

「聖剣、無いわよ」

「な、なんでぴ?」


精霊はくるくる回り始めたと思ったらぴくっとして止まった。


「聖剣が魔王に刺さったままでぴ。なんででぴ?」

「魔王を倒してないからに決まってるでしょう。どうやって倒すのよ」

「聖女と五人の仲間が魔王討伐に一年掛けて向かいながら成長し絆を深めるでぴ。パワフルになった聖女のバフは魔王への接近を許して五人がかわるがわる聖剣をぶっ刺すと魔王も虫の息でぴ」

「あんたのことは『攻略本精霊』と呼んであげるわ」

「なんか名付けられてしまったでぴ」

「で、これと」


王子を指さし、次に、精霊ではなくヒロインを見て呆けている側近たちを指さした。


「あれが、五人の仲間よ」

「四人のとの絆が完全に消えてるでぴ」

「なんとかなりそ?」

「むりでぴ」


私と精霊の話を黙って聞いていた討伐メンバー意外のみんながそろって暗い顔になった。


「なんとかしなさいよ。あなたたちもただでは済まないんでしょう?」

「僕たちは滅んでも千年とかで復活するでぴ。どうしようもないときは諦めが肝心でぴ」

「な・ん・と・か・し・な・さ・いっ」

「じゃぁ三か月だけ時間を巻き戻すでぴ。それ以上は無理でぴ」

「戻しても同じことが起こるだけでしょう?」

「ここにいる人間の記憶は残したまま巻き戻すでぴ。なんとかなるでぴ?」

「あんたほんとに人間のこと知らないのね。討伐メンバーと王族の記憶は消しなさい」


王子がまたむーむー言い出したが無視よ。


「小分けはめんど、わかったでぴ。二度目はないでぴよ」

「で、巻き戻しのデメリットは?あるんでしょ?」

「世界樹の力を使うでぴ。魔蟲の成長が速くなるでぴ。三年早く滅びるでぴー」


誰もいない教室にたどり着き、ひとり断罪回避の方法考えていると、三か月分の記憶が蘇った。

私のことを探している人がいるかもだけど、滅亡回避にひとり考えを巡らした。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「この場を借りて皆に伝えておこう。私はベアトリスとの婚約を破棄し、ミーナを。。。」


パーティー開幕からしばらくして王子が断罪イベントを始めた。

出席者は卒業生だけに限定した。

この三か月間、私プロデュースでみんなに頑張って演技してもらってここまで来た。

記憶を持ち越した人は頭まともになってるからね。

恥ずかしいとかこんなの私じゃないとかいう令嬢に乙女ゲーム的な言動をしてもらうのにちょっと苦労した。

ヒロインは妊娠していない。

前回は治療師を戻して、王子がヒロインを城に連れてったときに致したのだと思う。

最重要課題だからこれはみんなにも気を配ってもらった。


「。。。よって、ベアトリスを国外追放とする。連れていけっ」

「このようなこと許されるはずありませんわ!覚えておいでなさい!」


恥ずかしいっ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


めでたく断罪追放された私は屋敷に着くと外交キャラバンチーム(私命名)にうまくいったことを伝え、早々に王都を出立した。

巻き戻ってからの三か月間、一番力を入れたのは召喚陣の実用化だ。

諸侯からの寄付金を湯水のように使い、優秀な人材をごり押しで集め、ところ構わず資料を押収し、やりたい放題で研究した結果、なんとか召喚陣を起動することに成功した。

希少素材を使った燃費の悪い短時間使い捨て仕様だけれどね。

まずは隣国に到着、当然アポも取ってある。

主要人物を集めてもらい『攻略本精霊』を呼び出す召喚陣を起動する。


「では精霊様、ご説明をお願いいたします」

「一年後に魔王の封印が解けるです。聖女と勇者が覚醒して一年かけて魔王を討伐するです。その一年後に誕生する聖女の子が十三年以内に世界樹にたどり着かないと世界が終わるですー」


精霊の言があるかないかで、信用性は一万倍違うからね。

後はキャラバン隊におまかせ。

アイデンティティが、と喚くでぴ精霊に必死に頼み込んで、お告げのときだけは語尾を変えてもらった。

あれを使われるのとでは信用性が一万倍違うからね。

一日かけて魔王対策などの第一次協議を行い、後は後続の隠密外交団にまかせる。

我が国で協議するわけにはいかないもの。

翌朝早くから次の国へ出発。

癒しが欲しい。

召喚陣効率化の研究にモフモフ召喚研究を紛れ込ませてある。成功しないかなぁ。

乙女ゲームってモフモフ要素はないものなの?


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


魔王討伐隊の凱旋で王都はお祭り状態。各国の要人たちもお祝いに駆けつけている。

私もこっそり見学に来た。討伐メンバーは大人気。メンバーもにっこにこ。でも事情を知ってる人たちからの評価はだだ下がり。


キャラバン外交のあと、すべての国が一丸となって魔王解放対策に乗り出した。

公式には我が国だけは聖剣が戻ってからの参加だけどね。

各国の役割分担や緊急特別条約の締結、魔王解放から一年後までの被害予想地域の住人の移動とそこに入る討伐軍の編成、徐々に増えてくる魔獣を見越した防衛計画、不測の事態へのルール作り、魔将の動きを制御するための国を超えた精鋭部隊の設立、その結果、犠牲者は出たが被害は最小限に押さえられた。間違いない。


一方、魔王討伐への道イベントはかなりの綱渡りだった。

聖女覚醒イベントと聖剣召喚イベントを無事終え、魔王討伐に向かった討伐メンバーは明らかに精彩を欠いた。

でぴ精霊による考察だと、聖女の2年先に生まれる予定の子供は不思議だけれど大精霊の加護を既に受けている状態。

なので聖女としてのステージが少しずれてしまったみたいでバフの効果がちょっとだけ薄いんだそうだ。

王子は時間が巻き戻る前に召喚紋が刻まれたのに召喚してくれなかったので聖剣が少し拗ねちゃってるみたいだって。

側近連中は巻き戻ったとはいえ一度切れた絆、些細なことでも絆が深まる、という訳にはいかなくなってしまった。

それでもって負のスパイラルが発生し、道のりは暗い。

試練を与えて成長させなきゃ魔王は倒せない。

このままだと一年で魔王のところまでたどり着けない。

仕方ないのでエマージェンシープランが続けて発動された。

プランA:旅の剣闘士やさすらいの魔女、名刀を求め歩く剣術使いなどなどその道のプロとの出会いを演出しメンバーを鍛えた。

プランB:雑魚魔獣しかいないところでは地元の人の好い狩人に扮した軍人がショートカットを案内しつつお悩み相談に応えメンバーのわだかまりを解きほぐした。

プランC:魔将は勇者一行に対敵する前に精鋭部隊が打撃武器でちまちま痛めつけておいた。


魔王へのルートで立ち寄る街や村の住人も皆軍人だ。

討伐メンバーの進行に合わせて軍事たちも移動する。

同じ人物に何度も出会うのだけれと衣装やメイク、喋り方も変えているので気づかれることはない。

人の好い狩人も毎回同じ人。いや気づきなよ。


そしてプランD:やけくそ物量作戦。討伐に失敗したら後がないからね。

勇者一行がいよいよ魔王に挑むその前に、セプタ国のワイバーン部隊とメリダ国のミニドラゴン部隊が世界中から送られてきた聖水を魔王城を取り巻く瘴気へと空からぶちまけた。

地上からは何百機もの投石機で聖っぽいものなら何でも投げつけた。

聖具、聖典、聖書、聖堂の扉。教会の鐘、祭壇、演台、床板。聖域の土、石、草、木。何でもありだ。

結果、薄っすらとしか見えなかった魔王城が割とはっきり見えるようになったと報告が届くと作戦本部のみならず各所で歓声が響き渡った。

そして勇者一行はへろへろになりながらも何とか魔王を打ち倒した。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


凱旋から一月後、王子とヒロインの婚姻で王都は再びお祭り状態。各国の要人たちもお祝いに駆けつけている。二人はとっても大人気。手を取り合ってにっこにこ。でも事情を知ってる人たちからの評価はだだ下がり。


これからお城で秘密の会議があるので私もこっそり参加する。

王子の側近も新婚旅行に同伴するから、お城にいる王族にさえばれなければ問題ないのでここでの開催となった。

王子の驕りがひどい。

魔王を倒して聖剣も所持したままなので自己評価がうなぎ上り。

「我は初代皇帝の器」とかの戯言が漏れ聞こえてきて、誰もが怒るやら呆れるやら。

でぴ妖精によると正規のルートでも同じようになるらしい。

その上、大精霊の加護を与えられ世界の命運を委ねられた息子に注目が集まるにつれ嫉妬でますます厳しく当たるようになり、挙句の果ては城から追い出すのだそうだ。無茶苦茶ね。

今回はキラキライベントは無いから隠そうと思えば隠せるけれど、それで世界が救えるのか?

方針は満場一致で決まった。


それと、でぴ精霊だけど中精霊になったので人の手では召喚できなくなっちゃった。

あのむかつく語尾がちょと懐かしい。

でぴ自身は成長したからとか言ってたけど、ぺらぺら人に喋らせないように昇格させられたという線が濃厚ね。

人に優しくない精霊界の掟ってやつ?可能な限り召喚を行なって攻略情報を得ようとしていたのだけれど中途半端なところで打ち切られてしまった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


王子とヒロインの子供のお披露目で王都はまたまたお祭り状態。各国の要人たちもお祝いに駆けつけている。


お城の大会議室では、救世プロジェクトメンバーから、討伐メンバーと王族たちへの説明会が行なわれていた。

彼らには、時間が巻き戻ったことを含め、話せることはすべて打ち明けた。

王子だけは拘束されて聖剣も取り上げられている。


「部外者にされ続けていたことには憤りも感じるが、ここに至っては仕方あるまい」

「なっ!何を申されているのですか父上、私を貶めるための作り話に決まっているではないですかっ」

「そうだとしても勝ち負けで言えば完全に負けだ。救世会議とやらには元王族派だけではなく他国の国王までもが参加しているのだ。どう足掻きようがあるというのだ」

「この者たちは、私の名声に危機を覚えて集まった卑怯な連中です。味方を募のり聖剣を取り戻せば魔王のように切り刻んでやります」

「見て分からんか、お前の名声は民だけのものだ。この者たちが真実はこうだと語れば、お前の名声などたちまち泡と消えよう」

「貴様らも黙ってないでなんとか言え!こんなふざけた話を信じるのか」

「殿下、実は我々は魔王討伐で不可解だと話し合ったことがあるのです。背格好の似た猟師が幾度も現れたり、的を得た指導ができる武芸者に出会えたことも都合が良すぎました」

「村人の体格が妙によかったりハキハキしていたのも納得がいきました」

「魔王城の周辺に散乱していたガレキの正体も分かりすっきりしました」

「この裏切り者どもめ!そのような小細工に簡単に騙されおって!薄汚い取引でもしたのかっ!」


どうしようもなかったので王子は退場してもらった。このまま軟禁コースね。

ヒロインには本当に味方になってほしいのだけれど。子供のためにも。


「たとえあなたたちの言うことが本当だったとしても、ウィルは渡しません!」

「渡せなどとは申してはおりません。救世の英雄と成るべくお手伝いしたいと申し上げております。何卒ご理解を」

「そうして戦わせるんでしょう!一人で!十三歳で!無理よっ!」

「無理ではございません。我々が全力で支援します。あなたにも応援していただきたい」

「ふざけないで!あの人に聖剣を返してよ!私たちがやっつけに行くわ!」

「大精霊の加護を授けられた運命の子はあなた様のお子と決まっております」

「加護なんて知らないわ!その精霊を呼び出しなさいよ!付け替えてもらえばいいじゃない!」

「ミーナ、精霊はもう呼べない、呼べても付け替えるなんてできないわ。ウィリアム王子の力を信じてあげて」

「無理よ。私たち六人でも魔王を倒すのに必死だったの。それも私たちだけの力じゃないんでしょう。絶対に無理よ」

「一人で戦うんじゃないのよ、みんなで力を合わせあなたの子を育てるの、一人じゃないってことなのよ」

「絶対にいやっ!」

「ミーナ、戦う力を得たら世界樹への道が開くの。勝てるから戦うのよ」

「魔王を封印した剣聖は死んじゃったんでしょう?相打ちじゃない。みんなのために犠牲になれってこと?いやよっ!」


あぁ、そこまで話すべきじゃなかったか。

どうすればよかったの?

ヒロインの気持ちも分からないとは言わない。胸が痛い。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


今日はウィルが世界樹への道を開く日だ。

まぁ本当は半年も前に道は開けたのだけど期限まで余裕もあるしってことで入念に準備を整えた。


ミーナには可哀想なことをした。

ミーナは未来を酷く案じる余り我が子のことを忘却してしまい聖女の力も失った。

今は城の一画に軟禁された元王太子と子供たちと仲良く暮らしている。

夫が聖剣を持てば世界を救えると言ったと伝え聞いた元王太子はミーナを離さない。

戦いを無事終えたウィルに会えば思い出すんじゃないかと希望は持っている。


ウィルは強く賢く美しく育った。

十三歳なのでまだまだ成長するけどね。

全世界から集められ審査された優秀な指導者による、決して独断を許さない、討議により日々アップデートされる導きにより、これでもかというほど優秀な若者に育った。

私にできたことは母親代わりに褒め甘やかすことと食事の管理だけ。

肉ばっかり食べさせようとしないでよね。

ウィルには、絶対内緒ってことで、転生したことも前世のことも話してある。

乙女ゲーム云々は言ってないわよ。

前世のことは興味深く聞いてくれて結構いい息抜きと刺激になったみたい。


今日の日に合わせて調整された各国の選び抜かれた国宝秘宝護符を身に着けたウィルが光り輝く聖剣を振り上げると歓声が爆発した。

ウィルの目の前の空間に亀裂が入り、広がって景色を映し出したその先には世界樹が小さく見えた。


「皆の者!行ってくるぞ!」


再び起こった歓声が収まらない中、ウィルは振り返り私に近寄ってきた。

見上げたその顔は、不安など少しも感じていないようだ。


「それでは母上、行ってまいります。ご心配なく。無事、魔蟲を虫の息にしてやりましょう」

「少しも心配してないわ。はいこれお弁当。あなたの好きなものだけスペシャルよ。私は甘いものでもいただきながらゆっくり待ってるわ。行ってらっしゃい」

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転生悪役令嬢、タイムリープして世界を救う。多重イベントでお腹いっぱい。 木乃末わみつ @wamitsu

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