第2話 黄金艦隊

 それから2日間、俺たちは付近でワームの狩りをしたり、ギルド内での連携と調整に時間を費やした。ギルドマスターのトワとサブマスターの暁はギルドの代表としてほかの有力ギルドと当日の動きについて話を詰めにも行った。もっとも決めたのは当日どの方位からアタックをかけるか程度であり、あとはチャットで適宜連絡を取り合うくらいのこと。

 もともとプレイヤー間で軍隊のように組織だった行動なんて期待できない。そもそも、プレイヤーの大半はソロから中小規模ギルド所属の層だ。大規模ギルド同士でいくら連携し協力を呼び掛けたところで、従う義務も義理もなく、実際従ってくれるプレイヤーは半分もいればいいかな、くらいである。最悪戦功の取り合いや衝突事故からの内輪揉めに発達しなければそれでいい。

 そうして、イベントの当日。ティルウガイの街の外側には、何百という数のサンドシップが並び、ものものしい雰囲気に包まれていた。サンドシップは姿も大きさ様々だ。小さなものはライト級から、何百人と乗り込めそうな巨大艦まで。その、集まった船の中でも特に目を引く巨大なサンドシップのひとつを前に、トワは自慢げに胸を張る。

「さあさあ見るがいいっ! これがプレイヤーの保有としては現在7隻しか存在しないスーパーヘビー級サンドシップ、ビッグセブンの一角、黄昏の乙女号の勇姿だ!」

 ばっ! と腕を後ろに振るう。いやそんなことしなくても見えてるから。

「トワのやつめっちゃテンション高いなー」

「まあ自分の設計した艦の初陣だからなぁ」

 ギルメンたちの言葉。

 サンドシップは大きさで3つのクラスにわけられる。まあプレイヤーの間じゃ大きさより運用規模でカテゴライズするのが一般的だが。

 ひとり乗りのライト級。およそ2人から10人で運用するパーティー向けのミドル級。それより巨大な、ギルドでの運用を前提としたヘビー級。

 ここに先月のアップデートで追加されたのが、ヘビー級のさらに上、100人規模での使用を想定した超大型サンドシップであるスーパーヘビー級だ。

 まあ現実じゃ戦艦一隻に何千人と乗組員がいるもんだけど、ゲームじゃ人員確保の面から厳しすぎるからな。世界観的にもスーパーヘビー級はリポーションスラスターの性能的上建造可能な限界の大きさとされていて、クレストムーン所有の戦艦もスーパーヘビー級が最大だ。

 ただ、普通に集まったメンバーでどこか行くときはだいたいミドル級で事足りるし、足りなくてもミドル級を2隻出したほうが小回りが利いて便利なのだ。

 燃料消費も馬鹿にならず、ヘビー級ならまだしもスーパーヘビー級ともなるとこういう大規模なイベントのときくらいしか日の目を見ることがない。

 とはいえ性能は、従来のヘビー級と比較しても桁ひとつ違う。まさしく戦略兵器である。

 黄昏の乙女号に乗り込んだ俺たちは出立の最終準備を済ませ、NPCの国王が号令をあげるのを待つ。今回、戦闘の総指揮は第二王子が取り、俺たちはプレイヤーは雇われた傭兵の扱いだ。まあ戦力比だとプレイヤーが9割以上。プレイヤーたちが好き放題やって混乱に陥らないように、システム側である程度誘導したいってことなのだろう。

 いかにもな格好をした国王が拡張された声で演説を述べ、第二王子がこたえる。俺たちは聞き流す。で、演説の長さにプレイヤーが苛立ち始める前に儀式的なあれこれは終わり、国王は大声を張り上げ砂漠轟虫の討伐を命じた。

『よしっ! 動くよ!』

 トワの声が拡声器を通して艦内に響く。数秒。黄昏の乙女号はゆっくりと砂地から離れつつ、徐々に速度を上げ始める。

「おおっ」

 実際に動き出したスーパーヘビー級に艦の各地から感嘆が上がる。

「いやーこうしてみるとでっかいね。うちの船があんな小さく見える」

 甲板から砂海を見ていると、優男然とした銀髪のプレイヤーが話しかけてきた。

「やっぱスーパーヘビー級は強い?」

「どうだろう。まだ実戦が一度もないからな。ただ積載量だけでも桁違いなのは確かだ」

 聞いてくる男はウワバミ。彼はサンセットではなく、同盟ギルド、疾風迅雷のサブマスターだ。彼らのギルドの船は艦隊として黄昏の乙女号の左手につけているが、ウワバミはギルドの代表兼連絡要員として黄昏の乙女号に乗り込んでいるのだ。ちなみに、疾風迅雷の戦力はヘビー級のサンダーソニア号を主力に、3隻のミドル級サンドシップで固めている。

 また黄昏の乙女号の右手に位置するのが、もう一つの同盟ギルドであるナフスル親衛隊の幼女大正義号。さらに4隻のミドル級が続く。ちなみにナフスルというのはクレストムーンの第三王女の名前で、親衛隊を名乗っているができることといえば外から眺めるだけである。

「そいや浮いたヘビー級を一隻戦艦仕様に改修したって聞いたけど、持ってきてないん?」

 黄昏の乙女号を旗艦とし、ヘビー級2隻、ミドル級7隻で形成された3ギルド合同の黄金艦隊。外から見ればなかなかの威容だけど、ただ乗ってるだけの俺たちは割と暇なわけで。調整役としても連絡役としても戦闘が始まらなければ仕事がないウワバミが、時間つぶしにと話題を振ってくる。

「あー。金色の夜叉号ね。確かにした。けどビミョーだわ」

「なんで? やっぱそこまでの大幅な改造は無理があった?」

「いやー、そういうわけじゃないんだけどさ。うちって基本パイロットばっかだから。まともな砲撃手を確保できないし運用ノウハウもない」

 試しに使ってみたらトップクランとは思えないぐだぐだっぷりだった。交戦距離の差もあって、偏差射撃や弾道の感覚が普段とまるで違うのである。最終的に念のため持ってきたライト級でやったほうがはやかったほど。

「遊びで使う分にはいいんだけど、まじめにやろうとすると戦力から外されるという」

「うわ、もったいなっ。使わないんならうちに売ってよ」

「そういうのはギルマスに言ってくれ」

「んー、このイベント終わったら真面目に相談してみるか。うちのギルドやっぱ火力不足だし」

「まあ、がんば」

 ウワバミと話していると、しばらくして拡声器から連絡。どうやら間もなく戦闘領域に突入するらしい。遠くに、討伐目標である砂虫の、恐ろしく巨大なシルエットが見えてきた。

『レーダーに反応! 小型のワームがめっちゃいる!』

「さっそくおでましか」

『ワームは群れがいくつもある感じ。進路上に一集団! 親衛隊の砲撃で先制攻撃を仕掛ける。パイロットは出撃準備を整え待機せよ!』

「出番?」

「だな。行ってくる」

「じゃあまあ、気を付けて」

「ああ」

 俺はウワバミを残し、甲板から船倉へと移動。同じく格納庫へと向かうギルドメンバーと合流する。

 最大級のサンドシップである黄昏の乙女号だが、その実武装と言えるものはほとんど保持していない。最低限の迎撃装備は積んでいるが、それは本当に最低限度であり、自衛を超えた能力は誰も期待していない。

 では黄昏の乙女号が何を搭載しているかといえば、大量のライト級サンドシップと、それらが使う燃料弾薬、および修理パーツだ。ビッグセブンの中でも唯一の純空母型サンドシップであり、その道の最前線をひた走るトップクラン、サンセットの在り方を象徴する艦なのである。

「さあ、派手に暴れようか」

 樽2つをくっつけたような、特徴的な形の舟に乗り込む。この双胴型サンドシップの名前はモルフォ。航続距離や経戦能力といった、およそ単体運用で重要になる要素を捨て、母艦のサポートを前提としたバランスで設計したモデルだ。トップスピードではリムルスに負けるが、機動性と安定性、火力が高いレベルでまとまった自慢の機体である。武装は25mm機関砲2門と近接砂上魚雷2発。今は雑魚掃除なので、弾は徹甲榴弾ではなく安い通常弾を装填してある。

 黄昏の乙女号の側面から射出されるように、砂海へと飛び出す。

 ワームの群れに向かう十数のライト級の頭上を飛び越していくのは、幼女大正義号から放たれた砲弾の雨。名前と見た目はふざけてるが、リソースの大半を遠距離火力に割り振った幼女大正義号の殲滅力は戦艦型ヘビー級の中でも上位に位置する。ライト級ばかり使うせいでろくに砲弾を当てられない俺たちと違って、あっちには優秀な砲撃手も揃ってるしな。

 砂海に着弾したいくつもの砲弾が爆発し、砂とワームを巻き上げる。ヘビー級を前にすれば所詮小物のワーム程度、数百群れたところで物の数ではない。このまま遠距離から砲撃するだけでも全滅させることは可能だろう。とはいえ、敵の密度が減るほどまとめての攻撃は難しくなる。砲撃だけで殲滅するのは時間的にも資源的にも効率が悪い。

 だからこそ、止めを刺すのは俺たちだ。接触事故を起こさぬよう一定以上の距離を保ったまま群れに突っ込んだライト級の編隊が、生き残りを確実に仕留めていく。どうやら俺たちの艦隊だけでなく、ほかのプレイヤーも参戦しているようだ。ま、黄金艦隊は目立つからな。勝手についてきている小規模ギルドやソロプレイヤーの存在はいつも通りである。実害がない限り無視すればいい。


 いくつかの群れを処理し、前進するにつれ、シルエットだけだった目標の姿は徐々にはっきりと浮かび上がってくる。なるほど確かに、ワームの親玉といえばまさにその通りの外見だ。通常のワームは砂色の体表をしていて、その質感はブヨブヨとやわらかい。だが砂漠轟虫の体はまったくの別。皮膚の色はより暗く岩のようで、見た目の質感もまたそれを思わせる。そんな鎧のごとき体の表面には無数のイボがびっしりと。赤く光るそれからは次々、小さなワームがずるりと這い出してくる。

 その姿は、見たものに嫌悪感を抱かせる類のものだろう。だがなによりの特徴は、巨大、の一言に尽きる。

「わかってたことではあるが、なんつーでかさだ」

「確か霧の描写って10キロ以上だったよな。そんなけ離れてこれって、高さだけでも何百メートルあるんだよ?」

「つーかうじゃうじゃいる取り巻きのワーム、遠いから小さく見えるだけで下手すりゃヘビー級以上あるんじゃね?」

「距離感おかしくなりそう」

「あの表面のぶつぶつしたの、なんていうんだっけ……フジツボ?」

「そう聞くと一気にきもく思えるな」

「いやもとからきもいじゃん」

「ハッチとでも言おうぜ。つーか、絶対あれが弱点だよな、光ってるし」

「あれ全部壊せば死ぬ? それとも大ダメージ判定?」

「どっちにしろ狙うべきなのは間違いないだろ。あれがワーム出してるんだし、弱点じゃなかったとしても湧き潰さなあかん」

 あまりの大きさへの感嘆は早くも、攻略の糸口を探る声にとってかわる。

「戦艦型なら遠距離から砲撃でいいとして、俺たちとしちゃ外から地道に削ってくしかないかね」

「だろうな。あんな群れに突っ込んだら普通に死ぬし。張り付くにも取り巻きを減らしてからだ」

 ようやく見えた姿に、俺たちは戦闘準備を進める。これまで使っていた安い通常弾を徹甲榴弾に換装し、燃料を満タンに。イベント処理でドロップは出ていないため、インベントリの整理は不要。

 一方で艦隊としても動きを見せ、決戦用に陣形の組み直しが行われていく。サンダーソニア号を先頭に、いずれの艦もが砂漠轟虫へ攻撃できる配置へと。

『艦橋から連絡。指揮チームは作戦室に集合、パイロットは出撃準備状態に入れ』

 艦内放送を受け、俺たちは準備の整ったものから愛機に乗り込む。黄金艦隊以外の味方もそれぞれ戦いに向けて動いており、気の早い連中が砂漠轟虫への砲撃を始めた。的がでかいのでこの距離でもかなり当たっている。と、幼女大正義号も砲撃しだしたようだ。

 どんっ、どんっ、と砲撃音が腹に響く。

 そうして、今か今かと待っていた俺たちにも出撃の合図。カタパルトから射出され、俺たちは一斉に砂の海へ飛び出した。

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