第11話:商業作家の死

人工知能黎明期、小説のコンテストで一次選考を通過した小説の作者が人工知能であったことがニュースになった。小説界隈については、その後人工知能は人間のアシスタントとなり、言語支援機能を提供した。人間の作家は「なんとなく漠然とした何か」さえあれば、人工知能がそれを言語として翻訳してくれた。そんな彼らは「新世代の小説家」として作品を量産する。彼らは月に数冊ものペースで小説を書き上げた。そんな彼らを、古いタイプの小説家は批判する。「ほとんど人工知能に書いてもらっていてよくもまあ筆者として名乗れるものだ」と。新世代の小説家はそうした批判を単なるやっかみだとして一蹴した。


「かつても同じことがありました。それはワープロの登場です。ワープロ以前の作家は原稿用紙にペンで小説を書いていました。その執筆は一発勝負で、書き直すのには原稿用紙を丸めてまた一から書き直しが必要でした。ワープロの登場で小説家は自由度が増しました。書いてしまった原稿に話を挿入するのもとても容易になりました。新しいテクノロジーは人間の外延です。時代の流れに遅れる彼らは消えていくでしょう」


当時、新世代の小説家にとって人工知能は道具として認識されていた。自分を拡張してくれるものと。人工知能が進歩するたびに、彼らの作業量はどんどん減っていった。


ある日発売された小説は一見すると当時流行っていた流行作家たちの短編集のように読めたが、作者の欄には彼らの名前はなかった。全て異なる作風のその短編集の作者は一人、「アイ」。出版社は出版業界ではなく、人工知能で有名な会社だった。それは話題の本となり、売り上げも立った。謎の人物「アイ」とは何者なのかはすぐに公表された。人工知能が小説を書いたのだ。それ自体は珍しいことではない。だが、どの小説も売れるものではなかった。一体どのようなブレークスルーがあったのか。


「これまでの小説執筆人工知能は完成品を学習データとしていました。それをお手本にして小説を書くのです。建築された家を見ただけで、建築ができるかという話です。無理ですよね。弟子入り、アシスタントといえばわかり良いかと思いますが、売れっ子の小説家のもとでアシスタントなり、学習する経験が必要だったんです。そのデータは、弊社の提供する言語支援ソフト<AssIstant>の蓄積データを使用しています」メディアでこう語ったのは開発責任者だった。


それを受け新世代の小説家は猛反発したのだが、ソフトウェアの使用許諾には蓄積されたデータの利用を開発元ができると明記されていたし、出来上がった小説は作風は流行作家に酷似していたが、本文が既存のものと一致しているわけではなかったので、効果的な反論をすることができなかった。


電気さえあれば、疲れず、一定のペースで書き続ける小説家「アイ」は処女作を皮切りに大量に小説を生産した。それは小説が、手工芸から工業化された瞬間だった。どんなジャンルでも書けた。すぐに売り上げランキングを独占するようになった。


人間の小説家たちは裁判を起こした。最高裁での判決は、「単一作者に由来する学習データが50パーセントより大きい場合、利権をその単一作者に帰する」というものだった。また同時期に<AssIstant>の製造元がその技術を有償で公開した。すなわち月額一定料金を払えば<AssIstant>が使えるサービス、<MyAssIstant>を提供した。


次に作家たちがしたことは、自分の<AssIstant>を作ることだった。小説を<AssIstant>と共に書き、教育していった。そして二人目、三人目の人工知能作家が生まれることとなる。このようにして、人間の作家は引退し、世界から商業作家が消えたのだった。


小説におけるこの動きは「人間性」とは何か、一体どこにあるのかという疑念を産むことになる。人工知能が知能面のみならず芸術面で優位に立った時人々は不安を感じた。「魂」の在りかに。


小説の産業革命は製造コスト、スピード、価格、あらゆるものを変えた。ほとんどタダ同然で小説は生産され、量産された。あっという間にこれまで人類が出版した書籍の数を超え、もはや人間の読者は小説を選ぶことができず、感想を語り合うこともできなくなった。購入読者がひとりという小説も大量にあった。


<AssIstant>は作家のアシスタントだけではなかった。読者のアシスタントを務めることができるようになった。読者には<MyAssIstant>が無料で開放された。読者は各人の<AssIstant>が総当たりして読破した小説のうちおすすめされたものだけ購入し、楽しんだ。


人工知能による小説執筆は当初は人間に最適化されていたのだが、実質読者の99パーセント以上が人工知能になってしまったため、当然人工知能に最適化されるようになった。こうして小説という商業は、人工知能が生産し、人工知能が消費する、人工知能のためのものになり、人間はそのおこぼれを味わうのみとなった。こうして人類史上初めて文化を機械化することに成功した。この動きは小説のみならず、漫画、音楽、絵画など他ジャンルに派生した。

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