淡々とした日常の描写から、少しずつ時間の流れと記憶の重なりが滲み出てくる作品でした。換気という何気ない習慣をきっかけに、母の姿や、自分自身の変化に思いが向いていく流れが、とても自然に感じられます。年齢を重ねることで鈍くなっていく感覚を、悲観だけで描かず、「それでも今はまだ寒いと感じられる」という一点に静かな肯定を見出しているところが印象的でした。日常の中にある小さな実感を、丁寧に掬い上げてくれる一篇だと感じました。