①
―――「ゲーム画面とは、人の本性を映す鏡である」。
少女は気に入った詩でも読み上げるかのようにそう口にしてから、次いで、「どう思う?」と問い掛けるかのように夜の街に視線を投げた。
灯る窓明かりも、家路を急ぐ人々も、答えを返すことはない。
しかしながら少女は満足気で、その場でくるりとターンをする。
淡い青色のロングフレアスカートがふわりと広がり、同時に、腰までありそうな長い黒髪が大きく揺れた。
夜だった。
もう数分もすれば日付が変わり、六月になるだろう。
春と言うには遅い時期である。
しかし、時折吹く夜風に肌寒さを感じる辺り、まだ夏と呼ぶには早いのだろう。
少女が立っているのは、名古屋駅すぐ傍のアミューズメントタワーの屋上だった。
ビル内に入ったことはないが、聞くに、この建物は八階建てらしい。だが、少女は常々、「そこまで高いと感じないな」と思っていた。JRセントラルタワーズやミッドランドスクエアといった、地上200メートルを軽く超える超高層ビルが並んでいるからだろう、高いどころか、低い建物に見えるのだ。
日本有数の大都市が造り出す夜景。
その中に彼女はいた。
美しい少女だった。煌びやかなそれではなく、静かな海岸沿いの小さな波のような、穏やかな端麗さを有した少女だ。もしかすると何処かの令嬢だろうか。そう思わせる上品さもあった。
年齢は、二十に届いていないくらいか。高校は卒業していそうだが、そのまま四年制大学に進学していたとして、大学を修了している年には見えない。「少女」と「大人」のちょうど中間。それくらいの若者であるらしかった。
少女は今一度、この街を見回す。
今からゲームが始まる街を。
少女が、始めるのだ。
ゲームマスターとして、あるゲームを。
“ゲーム(game)”とは、なんだろう。
その単語は実に様々な事柄を指し示す。
それは「遊戯」かもしれないし、「勝負」かもしれないし、「試合」かもしれない。
「駆け引き」を意味することも、「ギャンブル」を意味することもあるだろう。
他人との競争の場合もあれば、自分の限界に挑戦する場合もある。
どれも「ゲーム」であり、どれが間違っているということはない。
彼女が始めようとしていたゲームは、その全てに該当していた。
この少女――Sが始めたゲームを、S自身は『ザ・ポリビアス』と名付けた。
しかし、結果から言えば、その名は広まらなかった。気取ったネーミングにし過ぎた所為だろう。ほとんどのゲームの参加者、つまり、プレイヤー達は、ただ単に『ゲーム』と呼んでいた。
「―――始めようか」
そして。
そのゲームについて、後に事情を知った人々は別の呼び方をした。
名古屋市を舞台として巻き起こった、願いを叶える為のバトルロイヤル。
それを、事情を知った人々はこう呼んだのだ。
極めて単純に。
けれども、これ以上ないくらいに的確に。
こう呼んだ。
即ち――『ゲーマーズ・ゲーム』と。
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