第2話 邂逅
進学したのは有名私立大学のK大だった。世間的には十分に一流だが、父の中ではT大が「あたりまえ」であり、それ以外の大学は無価値だった。輝幸が大学の入学式の案内を渡したとき、父は仕事、母は友人との旅行を理由に、式には出席できないと輝幸に告げた。二人の顔から感情を読み取ることはできなかった。
入学式の日、大学の最寄り駅から出て、大学へと向かっている途中、輝幸が遠くの空を見上げると、どんよりと黒い雲がかかっていて、空は見慣れた灰色をしていた。
入学式の帰り、キャンパスは騒がしかった。サークル勧誘の声が四方から降ってくる。輝幸はそれらを避けるように歩いていたが、「君、お笑い、興味ない?」と後ろから声をかけられ、振り返ると、長身で細身の男が、輝幸にビラを差し出していた。男は黒髪で眼鏡をかけ、男の輝幸から見てもさわやかだった。差し出されたビラに書いてあったのは、お笑いサークル「KO道場」の文字。男は
部室に着くと、既に20名ほどの男女が机を囲んで、座って話をしていた。「KO道場」の先輩たちと、彼らが集めた新入生達なのだろう。そんななか、輝幸の視線は一人の女性に引き付けられた。茶髪のボブで、ぱっちりとした二重瞼の瞳が印象的だ。モノクロだが個性的なデザインのパンツスタイルで、身長は高すぎず低すぎず、細身だが、胸や腰は女性的な丸みを主張していた。輝幸の好みのタイプではなかったが、単純にかわいいなと思った。
皆藤が、皆の注目を集め、サークルの概要を説明し始めた。お笑いライブや漫才コンテストなどの活動実績や、旅行や飲み会などのイベント、芸能界との繋がりや定期試験の過去問など、新入生が興味があることだけを短くまとめて繋ぎ合わせたようだと輝幸は思った。皆藤の話が終わると、自己紹介が始まった。輝幸の目を引いた女は「
輝幸が、だまって観客のように眺めていると、彼女が不意に言った。
「サークル説明を聞いてると全部楽しそうに見えるの、なんかズルくないですか。」
いきなり新入生から飛び出した、やや皮肉めいた言葉に誰も反応できずにいると。
「いや、ハズレ映画の予告編みたいに言うな。」
輝幸の口から自然とツッコミが出てしまった。
一瞬、間があった後、皆が笑った。
「ははは、君うまいこというね。」
盛り上がる上級生をよそに、輝幸はそんな自分に驚いていた。
ふと、綾子の方を見ると、目が合った。しかし、綾子は一瞬微笑むと、すぐに別の方を向いて、次の話題に加わった。「気のせいか・・・」と輝幸は思った。
その後はますます綾子のペースになり、綾子は会話のなかにどんどんボケを挟むようになった。奇抜なボケではないが、感性が鋭く、頭の回転が速い。輝幸は直感的に、自分とは違う世界が見えている人間なんだろうなと思った。
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