とある夏の日

 夕どきにようやくヒグラシの声を聞き、夏本番がもうすぐそこまで来ているのを実感する。それでも、上がり続けるかに思われた気温は不意の大雨で停滞し、遅れてやってきた梅雨のように、湿った空気がどこか冷ややかでいる。

 明日にはまた暑さが戻るのだろうか。それともまだ雨が降り続けるのだろうか。

 

 寝る私の耳元を一匹の蚊が飛ぶ。その羽音はどうしてか、私の心を逆撫でする。暗闇の中、手で追い払うのが精一杯で、少し経てばまた戻ってきて私の血を狙う。

 我慢もできず、蚊取り線香を焚いた。漂う煙がきつくて少し咳き込んだ。部屋に響いたその乾いた音は、外の雨音に余韻を許されなかった。

 

 汗ばむ背に貼り付くシャツを軽く剥がして、鼻をかすめる煙の香に落ち着きを覚えながら、布団の上、まどろむ夏の夜は心地よくどこか優越でいる。


 蚊に刺されたふくらはぎを足で掻いて大きなあくびをすれば、次にはもう朝がやってくる。

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