第7話
ー 晩ご飯 ー
神棚から出た音目と大神を、ゆんちゃん(左手)とめーちゃん(右手)は猫の姿で出迎えた。
『お前、少しは役に立ったようだな』
ゆんちゃんの第一声がこれだ。
「は?なんで?」
『全てお見通しじゃ。我らは多樹様と繋がっておるからの』
音目のびっくり顔にめーちゃんが答える。
「それならお前らも手を貸せばよかったんじゃないか」
『それはできぬ』
『猫の手も借りたいとか申すが、あれは人間の戯言じゃ』
「じゃあ、ほかに何ができるんだよ」
『この家と多樹様をお守りするのが我らの使命じゃ』
「だから、その多樹様が危なかったんだよ」
『そのためにお前がついて行ったのではないか』
それは違うのだが、これ以上言っても堂々巡りになるだけなので、音目は口をつぐんだ。
「気が合うんですね」
戻るなり始まった、音目と二匹の掛け合いを眺めていた大神がつぶやく。
この応酬を、気が合うと判断するのはいかがなものか。大神はゆんちゃんとめーちゃんの言葉は聞こえないと言った。それでも何かを感じ取ってそう思っているなら、全力で否定したい。が、何を言っても二匹から何倍も返って来そうなので、反論は飲み込んでおくことにした。
それよりも、気になる事に話題を変える。
「その振袖はどうされるんですか?」
持ち帰るしかなかった振袖の行く末を音目が気にするのは、またしても踏み込み過ぎかもしれないが。
「これは翔子さんにお届けしようと思います」
「娘さんをご存知なんですか」
「はい。それも依頼のひとつだったので。所在を確かめるだけで良いとおっしゃっていましたが」
安否だけでも確認したかったのだろうが、逢いたく無いはずはない。もし、娘が振袖を携えて父親に逢いに来てくれれば、テディベアと指輪の願いも叶う。全てが丸く収まるのは無理だとしても、長い間のしこりが少しでも解ければ、お互いが救われる。そうなればいいと、音目は強く思った。
大神は、振袖を丁寧に畳んで、神棚の段の上に置いた。振袖からはやはりもう何の言葉も聞こえない。
「さて、晩ご飯にしましょうか」
「あ、は…ぇ…」
ふり向いた大神に突然言われ、音目は間抜けな声を出した。
「ちあきさんから頂いた、おいなりさんがあるんです。これがとても美味しくて。ぜひご一緒に」
「…あ、では遠慮なく、いただきます」
断るには空腹過ぎた。朝、昼ともサービスエリアで買ったパンを、車の中で食べただけだ。
通されたダイニングルームは広く、真新しいシステムキッチンが備えつけられていた。食卓と椅子は大切に使われてきたアンティークなものなので、最近改装したのだろう。
「いいですね、ゆったり使えそうだ。料理、好きなんですか」
キッチンを見ながら何気なく訊いた音目に、大神は首を振った。
「いいえ…伯父は料理が得意だったので色々揃っていますが、私はあまり使っていません」
「あ、すみません」
「いえ、ちあきさんにもコンビニばかり頼っちゃダメとか、もっと野菜を食べなさいって言われるんですけど…」
確かに、3週とも弁当を買って帰ったのを思い出す。
「さあどうぞかけてください」
テーブルに三段の重箱を出し、一段ずつ並べながら、大神が椅子をすすめてくれる。取り皿と箸を置き、熱いお茶も出してくれた。
「いただきます」
向かいあって手を合わせた。
「これが五目で、真ん中がわさび、こっちが赤酢で、紅しょうがとちりめんが入っているんです」
一見して違いがわからない、稲荷寿司の中身を教えてくれる大神を見て、かなりの頻度で差し入れを貰っているのがわかる。
食べた稲荷寿司はどれもとても美味しかった。
「本当に美味しいですね」
「でしょう」
大神は自分が褒められたように嬉しそうな顔をした。
「特にこの、赤酢の甘みと酸味が絶妙ですね」
「そのお酢は、ここの商店街にあるお店で、伝統的な製法で作られているんです。まろやかで、焼き魚にかけても美味しいんですよ」
これまた嬉しそうに説明してくれた。地元愛が微笑ましい。
今日、いきなり押しかけて来た音目をここまで受け入れてくれて、一緒に晩ご飯を食べている。大神は、音目の名前と、物の声が聞こえることくらいしか知らないのに。この状況をつくづく不思議に思った。
その上、この夜、音目は大神のすすめで洋館の客間に泊めてもらったのだ。
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