第3話





「…っ」



 理央が息を飲む気配が伝わったのか、遥と呼ばれた彼女の方がキスを止め、理央に視線を向けた。



 その視線につられ、裕太も理央に顔を向ける。



 浮気現場を恋人に目撃されたというのに、裕太は酷く落ち着いた様子だった。



 それどころか、『何を邪魔してるんだ!』というくらいの顔で理央を睨む。



「あれって…もしかして、裕太の幼なじみの子じゃない?確か、桜井理央さん」



 悪びれる様子のない浮気相手は、ご丁寧に理央の名前まで知ってくれている。


 

 毛先まで手入れの行き届いた、艶々ロングストレートが魅力的なスタイルの良い美人。



 高校二年の同級生で、入学当初から異性に人気があるのは理央も知っている。



「理央かよ。何してんだ?こんなところで。美術室は隣だろ?」



 裕太は窓枠に腰かけると、苛立ったように髪をかきあげた。



 明るく染めた茶色の髪、耳にはシルバーのピアスが光る。



 どちらも立派な校則違反だ。




 昔は、背が小さくて泣き虫だった幼なじみ。


 同じ小学校の同級生に虐められて、理央が守ってあげた事もある。



 それなのに、裕太はいつからこうなってしまったんだろう。



 高校に入ってからは、サボり癖も酷いと知った。


 このままじゃ、この先の進路に響くかもしれない。




 理央は、動揺する頭の中で、裕太と付き合う事になった時の事を思い出した。



 裕太の素行の悪さが目立ってきて、心配になった理央は今まで何度か声をかけてきた。そして数ヶ月前、裕太の家まで直接行き、真剣に諭してあげた時のこと。


   

 裕太はやっと反省した様子で「俺にはやっぱり理央が必要だ。俺と付き合って欲しい」と、切実に告白してきた。




   





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