第15話車内の静寂:二人の決意

​【車内の静寂:二人の決意】


​駅の喧騒を離れ、二人はかつての初対面の日と同じように、彼の車に乗り込んだ。

助手席に座ると、ふわりと漂う懐かしい香りと、耳に馴染んだエンジン音。けれど、あの時の「震えるような不安」はもうない。代わりに、心地よい緊張感と深い安らぎが胸を満たしていた。

​車がゆっくりと走り出す。

流れていく仙台の街並みを眺めながら、彼はふと赤信号で止まった拍子に、私の左手を握った。

​「本当に、全部置いてきたんだね」

​独り言のような、でも確信に満ちた声。

私は小さく頷いた。

「……うん。もう、私にはキミ君しかいないよ。家も、肩書きも、全部捨てちゃった」

​彼は少しだけ力を込めて私の手を握り直し、前を見つめたまま言った。

「……怖くないって言ったら嘘になるけど。でも、それ以上に嬉しいよ。さーちゃんが、俺を選んでくれたこと。これからは俺が、さーちゃんの『帰る場所』になるから」

​その横顔は、27歳という年齢よりもずっと大人びて見えた。

かつて「まだ襲わないよ」なんて冗談を言っていた彼の中にある、一人の女性を守り抜こうとする覚悟。それが痛いほど伝わってきた。

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