第3話 キミとの初対面

【キミとの初対面】


はぁ…胸が痛い。

痛苦しいこの痛みは、家族に嘘を付いてここにきた罪悪感からか…

それとも、今から逢いたくて逢いたくてたまらなかった彼に逢える喜びと比例した不安からくる痛みなのか…


私はぎゅっと目をつぶり、パチンと頬を叩く。

しっかりしろ!後戻りはもう出来ない。

息をフッと吐いて携帯を見る。

待ち合わせ場所は仙台駅改札の出口。

時間は後数十分で待ち合わせ時間になる。


ドキドキする…

音が周りにも漏れて響いてしまいそうだ。

恥ずかしいな…

こんなに寒いのに私一人だけ、顔の火照りが目立っているだろう。


はぁ…

それよりキミ君は、私の事分かるだろうか?

アイコンに近付けるために、いつもより色の濃い口紅を塗ったのは自分でも頑張ったなって思う。

それでもだ、その他の印象なんかはアイコンの人物にはかけ離れている様に思えてしまう。

LINEのアイコンは、年齢不詳詐欺写メを使っている私だから、実物の私がどれだか気付かないだろう。

絶対に気づくはずはない。


え?

一瞬誰と目が合った。手を上げ笑顔で手を振る。

わぁ…と顔を伏せようとした途端にその人はスルリと私の横をすり抜け隣の小さな女の子の元に向かった。

あはは…。違った。

人違い…

ホッとしたのと同時に恥ずかしさが込み上げてきた。

これを何度繰り返す事になるのだろう。


何で会うと決まった時に素顔の顔を見せなかったんだろう。

私だってそうだ、正直どれがキミ君なのか分からない。

気付かないまま、ずっとここにいたら余りにも滑稽過ぎるな。


あ"ー!!!どうしよう。

かじかんだ手を頬に当てる。

それからポケットの中の携帯を握り締めた。

携帯の微かな振動が、キミ君からの連絡かと錯覚したからだ。

小刻みに震えているのは、寒いせいだったのか。


駅の構内アナウンス、行き交う人の足音、賑やかな笑い声…

私だけが1人浮いたような空間でゴクリと生唾を呑み込んでいた。

居心地悪いな…


私はフゥーッと息を吐いて空を見上げた。

冷えた空気に私の息が白いモヤを作って、それはスーッと消えていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る