第7話追いかけた理由
相川の背中が、遠くなっていく。
あの日、廊下で見た横顔が、頭から離れなかった。
泣いていたように見えたことも、
それを見なかったふりをした自分も。
このまま、何も言わずに距離を置いたら、
たぶん、元には戻らない。
そんな気がした。
「……相川」
放課後の廊下で、声をかける。
相川は一瞬だけ立ち止まって、
それから、ゆっくり振り返った。
「なに」 「話、ある」
短く答えただけなのに、
胸が妙に緊張した。
「今?」 「今」
相川は少し考える素振りをして、
それから頷いた。
人気のない階段の踊り場。
夕方の光が差し込んでいる。
「……昨日、無理させたなら、ごめん」
最初に出てきた言葉は、それだった。
相川は目を見開いて、
それから、困ったように笑った。
「なんで謝るんだよ」 「相川が、変になるくらいなら……」
言い切る前に、相川が口を開いた。
「俺が勝手に乱れただけ」
少し、強い口調。
「お前は悪くない」 「でも」
「でも、なに」
言葉に詰まる。
理由はたくさんあるのに、
どれも、ちゃんとした答えにならない。
「……相川が、いないと落ち着かない」
口にした瞬間、後悔した。
でも、相川は否定しなかった。
ただ、目を伏せた。
「それ、困る」 「なんで」
相川は、しばらく黙ってから言った。
「俺は、友達でいられなくなる」
胸が、ぎゅっと締めつけられる。
「それでも」
相川は、俺を見た。
「それでも、離れるのは嫌だ」
矛盾した言葉。
でも、今までで一番、本音に聞こえた。
「……じゃあ」 「答え、今はいらない」
相川は、そう言って笑った。
でも、その笑顔は、
いつもの軽さとは違っていた。
「今まで通りでいい」 「本当に?」 「本当」
相川は、俺の前に一歩近づいて、
それから、立ち止まった。
触れそうで、触れない距離。
「……じゃあ、帰ろう」
そう言って、先に歩き出す。
俺は、その背中を追いかけた。
理由は、まだ分からない。
でも。
この距離を、
もう一度失うのは、
嫌だと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます