11|体験談記事(修正ver1.01稿)

2019年9月号

オカルト雑誌「██」編集部 体験談記事(修正ver1.01稿)



「あの目は、今もこっちを見ている気がする」

——都内大学生Aさん(体験当時高校3年生)



 2016年の秋ですね。受験勉強の合間に、うちのクラスで妙に恋バナが流行はやった時期があって。特に女子の間では、「片想いが叶うおまじない」があれこれウワサになっていました。


 その中に、「手紙に目を描く」ってやつがあったんです。……変ですよね。でも当時は、結構本気で信じていた子も多かった。私もその一人でした。


 やり方はこうです。まず、好きな人に宛てたつもりの手紙を書く。と言っても、実際には何も書かなくてもいいんです。白紙でもいいし、最初に「○○くんへ」って一言だけ書いてもいい。肝心なのはそこじゃなくて——



 毎晩、その手紙に「目」を描き足していくってこと。



 使うのは、自分が「いちばん好きな色」のペン。私は紫が好きだったから、細字のゲルインクのペンを使っていました。描く目は自由。リアルでも、マンガっぽくても、片目だけでも両目でもいい。ただし、ひとつだけ条件があって——


 絶対に人に見られてはいけないって。



 それだけは守らなきゃ、って。当時は「見られると効果がなくなる」って言われていたけど、今思えば、あれは〝何か〟を封じる意味があったのかもしれません。


 私は23日間、続けました。毎晩、寝る前にそっと机に向かって、紫のペンで「目」をひとつだけ。途中から、自分でもわかるくらい目の形が変わっていって……最初はただのえんだったのに、気づいたら全部、こっちを見ている目になってました。


 ある日、うっかり机の引き出しを開けっぱなしにしたまま昼寝してしまって。


 起きたら、妹が紙を持って立っていたんです。


「なにこれ? 気持ち悪〜、目ばっかりじゃん」って笑ってて。


 私は反射的に取り上げて、何も言わずにそのままビリビリに破いて、ゴミ箱に突っ込みました。



 ……あの日からです。誰かに見られている感じが、ずっと消えないのは。最初は気のせいだと思ったんですよ。でも、通学の電車で、知らない人と目が合うことが増えたし、夜、自室の鏡を見たとき、自分の目がちょっと違う誰かの目に見えることがあって。あと、寝る前に部屋の隅を無意識に見るようになってて。何もいないはずなんですけど、たまに、視線の〝名残り〟みたいなのを感じるというか。空気の奥に、なにかひそんでいる感じがするというか。


 もちろん、誰にも話していません。だって、言ったら終わりな気がして……〝見ている何か〟に気づかれたくなかったんだと思います。


 あの紙、破いたあと、燃やすか何かすればよかったのかもしれない。でももう、どうしようもないですよね。



 大学に入って一人暮らししてからは、そういう感覚はほとんどなくなったけど——たまに、夜、部屋で本を読んでいると、ふっと視界の端に気配を感じます。


 気のせいかもしれません。でも、今だって……今も、あなたの目が……私のことずっと見てますよね? 私が話してる間ずっと、ずっと。そうですよね? 目が、私を、目に私が映ってて。そうですよね? いつからなんですか?



 ……ああ、すみません。つい不安になってしまって。ごめんなさい。話はこれで、全部です。



【取材後記】

 取材を終えた帰り道、どうしても胸の奥にひっかかるものがあった。Aさんは最初、ごく普通の女子大生に見えた。


 しかし、ひとつだけ気になることがある。Aさんが語っていた「手紙の紙」、それを妹さんに見つかったとき、ビリビリに破って捨てた……と話していた。だが取材が終わり、帰ろうと立ち上がった時に気づいた。窓際の棚の上に、いくつもの目がかかれた紙がそっと置いてあったのだ。私は何かを言いかけたが、それ以上は語らなかった。


 それきりだ。それなのに私は今でも、ときおり思い出す。あのときのAさんの、あの静かな目。


 そして——背後に〝誰か〟の気配を感じたのは、私の錯覚だったのだろうか。この原稿を書いている最中、視線を感じて何度も後ろを振り返ってしまう。あの話を聞いてから、私の部屋の鏡に映る〝自分の目〟が、どうにも他人のように見えてしかたがない。

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