マウント師匠

K

第1話


「はいはいハイっ……、お仕事が全然足りてないよ~、これ、、さっさとお願い ね……っ」

 ドンッと乗る大量の資料と、そうして仕事したとばかりに、ふー……とその男はこともなげに消えていって、「あの……いえ、もうすぐ私、定時なんですけど……」


「はぁァ? だからなんだ、、皆頑張ってんのよキミぃ……」

 その少し静まり始めたオフィス、賑やかだった電話の音ももうほぼ聞こえずで、「なんだよ、文句あるのか。お前みたいなのが偉そうに、チッ――」

「いや……でもこれって……、それにこの仕事って、確か――」


 私にもたらされたその束。全部全部そうだ、やはりこの男ので、そうしてあの後輩のだ。

 あ、駄目だよ、そっちは別の……。あぁ~~すんません先輩ぃ? でもいきなり色々言われても分からないんでぇ~、じゃあ俺コッチ、こっちやった方が良いですよね?

 いやいや、聞いてたかな、難しいって経験がいる。

 でも今頃の先輩でもやれたんでしょ? いや……、そうだけどね。それは私はまだ無理だとおも

 はいはいはい――、ま、大丈夫っしょ~。俺はこれに専念するんでぇ、は~い……。

 うんそうだ、これ、堂々と選り好みし勝手に奪ってった仕事だろう。どっから漁って来たかは知らないが、勝手に仕事を取ってるのだ。自分ごのみを見つけるまで。


 その後輩の様子を見やるが、その後輩はただただ薄ら笑いで来るだけで。

 それで結局コレかと……書類の山。

 もう3度目か。

 スキルメイクだとか実績だとか面白そうだとか、それでこれ。上司は知らん顔だ、何かあったらフォローすると言ったのに。

 こっちは押し付け相手だと思ってるのか、話は聞かないし報告もしない、ウソを平気でつく、舐められてる。しかも最初から言ってくれればフォローもあるんだけど最後の最後まで悪あがきで粘るから。

 だからその小さなプライドの為に……。


「いや……良い加減にさすがに。今日は誕生日でして……」「おぃ、もうそんな年じゃないだろうに……っ。いつまでもいつまでも」ふふふ――。

 大体さぁ、しっかりと言えば良かったろうに責任感もってよぉっ……。オマエがきちんと見てないから駄目なんだよ――。

 だがしかしこの問題児を誰一人嫌がり手を引いてって、ただこの目の前の男は――ここに回して責任持たせますからと――自らそう言った男に、必死に能面を貫いて私は座り、定時で帰らせている後輩を見送っていた。

 会議で仕方なくとか、それなら責任もてよ。


「はぁ――……、えと……? いや、そもそも間違ってるじゃないか……、えっ……ここは教えたのに。こっちも……」

 あれはまさか最初から――。

 じゃああの子、この8時間なにやってたんだろうか。私は何を教えれて……。


 また明日ーと……力が抜ける。でもまた奮い立たせる。


 ただ……好き勝手する奴らの後始末をする事がほとんどだな。

 窓から夕陽を見やる。いつも同じような景色だ、頑張っても頑張っても追いつかない、人生はずっとこんなんだ、昔からそうだった。

 同性はもちろん異性からも下に見られて馬鹿にされる始末。



 あぁあのね……、もう少しだけ真面目に接してね? 才能とかやりたい事って認めるけど、言葉遣いはきちんとしてよ。

 彼はメモを取らないし、きちんと少しの言葉を丁寧に繰り返す必要、「キミ、それで派遣さんにもそうだよ、学歴とかもやめなさい、相手にもう少し柔らかくだ」

「いやぁ? でもコッチ精一杯やってますけど?」「あぁ、アレで精一杯――?」


「あぁ、あのね……、でも頑張らないとだ、君がしたい事をすれば良いんじゃないんだ、皆やりたい事我慢してなんとかやってるから。少し周りを見てみようか……、ね?」

「いや、まぁ、そう言われてもしょうがないんで。 だって精一杯って言ってるじゃないっすか」「いやいや、精一杯だけじゃなく、もう少しそれを伸ばすんだよ。努力ってそういう物でしょう?」


「フ、ふふふっ……、いや、面白い事言いますよね、なんか先輩は面白いですよ」

「はぁ……? えと……面白いって何かな」「なにっていうか………―、あぁ~~~」

 全部ぅ?


 薄ら笑いにヒクつくが「いや、仕事の……。面白いとかじゃなく、もう少しま」「はいはいハイ、分かってますってぇ。そういうの良いですよ、時代遅れでっっす――。さすがに他の人にも聞いてますよ~」

 も~アンタだけじゃないって~……。



 邪魔だと言わんばかりで、その癖明らかに都合悪いのは私に押し付けてくる。その優秀らしい他人には一切頼らないし改善とやらも見られない。

 同期とも反りは合わないらしく、もうそろそろやれる事は尽きてきたか……。

 仕方なく残り少ない財布を見て、1万円札、そうして飲みに誘うが。



「いやぁ~~、限界ってぇ? でもそれは君が見といてよ~。大体キミのキャリアねぇ……ふふふ。まぁね……、あぁ、」

 キミ程度、でもなぁ~~?


「あの……、でもさすがに私としてはもう少し、実になる仕事を……。私も先輩だからってこんなに仕事ばかりするのはもう。だってその……何も実績になってませんから、もう3人目ですよ……っ」「はぁァ? 実績ぃ? えぇぇ……君がか? 大体生意気言うなよな、そんなの結果出してから言え……っ。そ、そうだよ2人も駄目にしてるんだわ、お前に任せて俺も信用が落ちてんだが!?」

 チッ――使えない。

 いや……、いえでも、もう私だけですね、同期は――。


 ずっと昔からだ、変わらない。もう最悪だ……。実際にはそもそも平等にされてないのだが。

 やって見せても無言でふーーん―――とごまかされるだけ。そんなの全員やれる、じゃあ私もその全員やれるのやらして下さいよ……。



 雰囲気だけで舐められてるなと、多分見た目だけで判断されているのだろう。やれると思うのだが、「容量悪いんだよ、お前はぁ……。ともかくいつまでも付き合うからさぁ?」

「俺もあんなの押し付けられたらたまんねぇわ~、もう適当で良いじゃん、適当でさぁ?」

 それで適当な事言ったら目ぇ輝かせてやんのよ、ヒヒヒ。


 同期は普通にやれてるだけでも十分だろう、私をただただ笑っている時が一番ムカつくが。美味い副業とか仕事やってるフリとか、この世の中は一生懸命やらないとどうしようもないハズなのに。それでも給料は上がらなくて。


 ウザイっす――。努力を押し付けて来るだけで、きちんと教えてないから。

 そうしてその新人はやめた――。

 ただただ、何も積もらない毎日、また。


「あぁ……疲れたよ、疲れた……」

 夜に一人、疲れて街並みを歩いている。

 また同じようなのが来るらしい。真面目にできない人間に仕事を真面目にさせるのが一番苦痛なのだと。


 彼はでも、アレで他でもやっていけるのだろうか、あぁ……、せめてもう少しだけ、威厳があったらなぁ……。

 ぷぉぉぉぉ―――――

 いかに舐められないか、なんていう事を考える毎日は辛い。底辺過ぎる。もう疲れた。



 するとふと綺麗なその月の傍(かたわら)、犬が華麗に跳んだのだ。アオーーーんと鳴いて。高層マンション18階から。

 風を切るどころか、早くてあっという間だ。多分犬だし舐めてて馬鹿だったのだろう。

 それが見る見る落ちて、落ちて落ちて、そのまま落ちて。

 目の前で直撃!「ぎゃああああ!?」私の前にいたハゲの叫び、黒きバーコードが全パージ!

 少ないけど美しいんだ……、非常に。月で煌めく黒が、人生をかけていた全てが散る。


 オジサンの血にまみれた恐ろしい形相が、犬の潰れた姿。首が折れてねじ曲がり、大型犬は臓物を吐き出した。

 糸引いてるよ……、ダメだ、力が入らない……。

 ひらひらと舞う命のバーコードだけは生き生きとしてて。

 幾度もの再起と再起と時折いたわりを繰り返し塗られて馴染ませられ、頭皮を守るために入念なブラッシングも、ひたすらに守り抜かれた毛の為の牧場。

 誰よりも強い競争毛(げ)にするんだ――。

 煌めいてる、死闘の末に作られたんだ……、ストレス絶叫が響く、立ちすくむ私。オッサン、リ・アップ!


 無理か……、ねぇ首ってそんなになるのね、


 臓物ってそんな色なの、逃げられないよ下半身が緩くなるよ。

 そうしてその命の輝きに向け発進、咄嗟にオバサンが動くのだ、叫びを聞いて向こう岸にいたオバサンが無理に動く。やってくるやってくる、そして

 ぷぉおおおおおおオオオ、ドスンッ――――――!



 そうして私、殺されました。心臓発作でした。目の前で野次馬のオバサンまでもが跳ね飛ばされて、四肢と臓物が飛んできて、歯ぐきとか、少し犬が動いてコッチ見たとか。

「あぁ……、はぃ――」血のビンタを喰らいながら、もうなんか訳わからんでピークして、白目になって倒れる私。泡を吹き――。


 ガッツリとキミ関係ないやんて惨めさで殺されました――。


 これきっと、誰にも謝罪されないだろうなぁー………………――――――。

 ぐふ……………、可愛い子と……――。あぁ一度で良いから……素直で良い子と、先輩面して、イチャイチャ指導して……あげたかった。


 一言感謝が欲しい、そんな……………、人生だった――。


―――――――――――――――。

―――――――――――。

――――――。

―――。

―。

 ちか…が、欲しいか……。

 え?


 欲しいのか……、そんなに……が欲しいか。

 聞こえて来る声。私はその悪魔のような言葉に耳を塞いだ、だが……。


 めっちゃ耳元で、そんなにチカラとあとマウントが取りたいかぁぁ……―――。

 あぁ……。なんだろうか。その複雑になる、この嫌な言葉は。


 そんなにお前はマウントが取りたいか……、取りたいのか―――マウントか。

 なぁマウントなのか、やっぱりマウントなのかァ―――――?

 あぁ……ヤダな、最後にこれを願う人生ってヤダな……。

 あぁだが……

 取りたいぞ。マウントが取りたい。私はマウントを取ってヤル、なりふり構わずもう――マウントしたいんだ。


 世界に逆らってでもマウントしてやるよぉおオオオオオオ!

 そして輝くは力。


 良いだろう、願いは聞き届けたりぃいい……。


 だってその死に方もう2例目だし、面白くなっちゃった。えへへ。さぁ、、、好きなだけマウントを取れぇぇぇぇぇエエ





 そして再度、私は闇から生まれ変わるのだ。気が付くと人が見えた。ゆっくりと開けていく、私は必死に見やるしかない、すごいボヤっとしているので目を見開いて、その優しい温もりの中……。


「ひ――!?」血まみれで滅茶苦茶ガン飛ばして来る赤さんに引き出す産婆さんがマジびびってる。頭を持たれて、肉の中。お母さんの下半身から私だよ。

 それで誰だよおめぇ――。

 お母さんのナカから引きずり出す途中でもう睨んで来る、マジで凝視。血まみれ凝視。

 だって赤ちゃんの目って見えないんだもの。

 でも思った以上に痛いね、首を引かれるのって痛い……。痛いわ。


 そうして引き出されれば口に詰まった羊水をきちんと一人で吐いて、あぁ、結構難しいのね。でも丁寧に自分で拭きとるわ。うん、へその緒は待って欲しいの。


 さて……、お母さんは大丈夫だったでしょうか、母体とその精神、大変頑張りましたと。大人しくも心配する様子の赤ん坊さん。

 でも男の方(かた)が見えないわ、あぁ……来ましたね。あの方なのね。良い男だわ、身長もあってそれで


 あぁあのね……? へその緒はね、待って。


 あの白い方はお医者でしょうか……、隣がじゃあお父さん? 挨拶しないとね……。

 うんしょうんしょ、裸で申し訳ありませんねぇ。とりあえず毛布だけでも……あら、産湯があるじゃないの。フフフ。

 お父さん、固まってる。全体的になんか静寂になる中で、まぁ産婆さんが仕事を忘れるほどに礼儀正しい、既にもう明らかなる気品と格式と、上品な品性を感じるからね。


 ナニナニナニ―――この初めての挙動の生き物ぉ……。へその緒の切断死守ってどういう事ぉ。

 はぁ~~、手が震えてなさるわね? 少し家族からも微妙な雰囲気ね。まぁ、しょうがないか、きちんとココは常識をもって私。


 それで目を見るのよ。


 まずはヘソの緒はですね、それはね? あぁばぁばぁ……あばぁ?(へその緒を切るのを2分待つと、後々まで深く、成長後の身体能力が上がるのですよ、はい。)

 淑女の眼差し。


 あらアナタ……? それでまさか、お尻をお叩きになるの、後遺症になるから駄目よソレ。お客様……いけませんそちらは、お客さまっ、

 あっ、あーッ――!?

 だから産婆さんに早急に一言、泣いて差し上げるのよ、つつましく、おしとやかに「ふうぇ――」

「あ、、ありがとう、ございます――」


 この上品な宣言と共に、見事に出産。誕生。そして再誕。


 それは滅茶苦茶かわいい容姿。最高だった、このツヤとこの細い腕と、そして何よりこの――。

「そう、良いわよ……、良い……っ。女性なのね、でもこんなのいたら話かけにくいに決まってるの――」


 舐められないような目じりの赤ちゃん。次の私は生まれた瞬間に目を見開き、既に世界を睨んでいた。

 そして育って行くが……。







という訳で、始まります。マウント師匠です。

それで評価を下さい、ハートとかも。それはあなたなりの評価をして欲しい。

創作としての心情が欲しいです。よろしくお願いいたします。

コメントとかも読んでます、ただ返しませんが。作者自身が返すとあまり……、って思う人なんで。

物語は読み手しだいですね。

でもとりあえず声がないと分からないので是非是非。無言でも全然良いです。どんな気持ちだろうって考えながら見れますので。

よろしくお願いいたします。



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