愛憎の卵

花沫雪月🌸❄🌒

愛憎の卵

 その卵を孵せ、く。


 そう、冷たく告げると父は私を蔵に残し錆び付いた鉄扉をギリギリと軋ませて閉じてしまった。

 錠前のかかるガチンという固い音が反響していくつも重なり合うけれどそれも静けさに呑まれてしまった。


 暗い。

 何も見えない。

 しかし、それは蔵の中に光が差さないからではない。

 私の目はとうに抉られその役目を果たしていないのだから。

 未だ血の滲む空洞に、ただ周りを穢さぬようにと布が巻かれている。


 私は供物。 

 一族に伝わる呪物への贄。

 その為だけにこさえられた命。

 蝶よ花よと可愛がったのは呪を為すため。

 

 十五を迎えた私に、父は……否、本当に父かどうかすらもわからない男は無情にも全てを明かした上で私を嬲り、穢し、壊し尽くした。


 腱の断たれた足はもう重りでしかなく、私は爪のない指で探りながら這い回り“卵”の気配を辿った。


 私の腹の中で苦痛と憎悪を喰らい膨れ、私の腹を裂いて取り出された“卵”。

 卵が憎い。父が憎い。全てが憎い。

 孵してなどやるものか。

 私は卵を打ち壊すのだ。それだけが私に残された復讐なのだ。

 

 ずりずりと這いずっていると、指先に固い丸いモノが触れた。アレだ。


 震える腕ではとても壊せないような固さ。

 私は精一杯に身体を仰け反らせ額を打ち下ろそうとした。

 なのに。


“愛でよ”


 頭の中に聲が響く。

 びくんと身体が跳ねて止まる。


“愛でよ”


 勝手に身体が動きそうになる。

 卵を抱き抱えるようと腕が伸びる。


“愛でよ”


 嫌だ……誰がこんなもの。


“愛でよ”


 嫌だ。

 愛でよ。

 嫌だ。

 愛でよ。




 愛でよ嫌だ愛でよ嫌だ愛でよ嫌だ愛でよ嫌だ愛でよ嫌だ愛でよイヤダ愛でよイヤダ愛でよイヤダ愛でよイヤダ愛でよイヤ愛でよイヤ愛でよイヤ愛でよイヤ愛でよイヤ愛でよイヤ愛でよイヤ愛でよイヤ愛でよ愛でよ愛でよ愛でよ愛でよ愛でよ愛でよ愛でよ愛でよ愛でよ愛でよ愛でよ愛でよ愛でよ愛でよ愛でよ愛でよ愛でよ愛でよ愛でよ


 ……イイヨ

















 デーーーーーーン!!

 突然直径20kmの巨大隕石が降ってきて世界は滅亡した!!!








 



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