滅亡後の未来から戻ったSSS級探索者、現役JKとして二周目を最速無双する
しゃくぼ
第1話:入学式、それは大虐殺の始まり
視界が赤い。
空から降り注ぐのは雨ではない。人類の、そして私を最後まで守って死んだ戦友たちの鮮血だ。
咆哮が鼓膜を突き破り、超巨大な影が地平線のすべてを覆い尽くす。
人類最後の生存者、天王寺レン。
SSS級探索者として十年間戦い抜いた私の体は、もはやボロ雑巾のようだった。
「終わるのか。……いや、終わらせてたまるか」
心臓が止まるその瞬間、私は手の中にあったアーティファクト、神代の歯車を砕いた。
もしも。もしもやり直せるのなら。
次は、絶対に。
視界が真っ白に染まり、轟音が消えた。
「――天王寺さん? 天王寺レンさん」
穏やかな、どこか抜けたような声が耳に届く。
鼻をつくのは焦熱の臭いではなく、春の風に乗った桜の香りと、ワックスの効いた床の匂い。
私は目を見開いた。
目の前には、戸惑った表情の女性教師。
周囲を見渡せば、真新しい制服に身を包んだ少年少女たちが、体育館のパイプ椅子に整然と座っている。
檀上には入学式の看板。
「……ここ、は」
「気分が悪いの? 返事がないから心配したわ。さあ、新入生代表の挨拶をお願いね」
教師が促す。
私は自分の手を見た。武器だこ一つない、白くて細い、少女の手。
視線を落とすと、膝上丈のプリーツスカート。
間違いない。ここは十年前。
私が私立聖条高校に入学した、二〇二六年四月一日。
後に大崩壊と呼ばれる、世界中にダンジョンが発生したあの日だ。
私の脳内の時計が、正確な時間を刻み始める。
現在時刻、午前十時五分。
一時間後、この体育館の天井が裂け、最初のゲートが開く。
そこから現れるのは、当時の自衛隊では歯が立たないランクBモンスター。
この場にいる生徒八〇〇人のうち、生き残るのはわずか三人。
私の地獄は、ここから始まったのだ。
「……いえ、問題ありません」
私は立ち上がった。
教師は安心したように微笑んだが、私は檀上へは向かわない。
そのまま出口の方へと歩き出した。
「ちょっと、天王寺さん!? どこへ行くの!」
背後で教師や生徒たちがざわつくが、無視だ。
今の私に、退屈な儀式に付き合っている暇はない。
一分一秒が、未来の生存者数に直結する。
「天王寺! 式典の最中だぞ!」
体育館の入り口で、生活指導の教師が立ち塞がる。
私は歩みを止めず、軍隊で培った効率的な重心移動で、その脇をすり抜けた。
触れるか触れないかの距離で相手のバランスを崩し、振り返らせる隙も与えない。
「――作戦行動を開始する」
呟いた声は、女子高生のものとは思えないほど冷徹に響いた。
校舎を飛び出し、私は全速力で走る。
ステータスはまだ初期値。だが、体の動かし方はSSS級のそれだ。
最小限の歩幅、最大効率の酸素摂取。
向かう先は、学校の裏手にある放置された旧校舎。
その地下貯蔵庫の奥にある、特定の壁だ。
一時間後、世界中にゲートが開く。
だが、実はゲートが開く一時間前、すでに一部の空間では魔力の収束が始まっている。
未来の知識によれば、この学校の地下には、世界で最初に出現した隠し宝箱(シークレット・チェスト)が存在するはずだ。
「ここか」
埃の積もった地下室。壁の一部が、わずかに青白く発光している。
私は迷わず、壁の特定のレンガを一定のリズムで叩いた。
ト、トン、トトトン。
未来で解明された、ゲート解放前の干渉コード。
ガリガリと音を立てて壁が崩れ、中から漆黒の小箱が現れる。
蓋を開けると、そこには一本のナイフと、透き通った青い液体が入った小瓶があった。
「ランクSSS装備、星断のダガー。それに、潜在能力全解放のポーション」
ポーションを一気に飲み干す。
喉を焼くような熱さが駆け抜け、血管を魔力が暴走しながら駆け巡る。
普通の人間ならショック死するが、私はこれを制御する呼吸法を知っている。
「……ふぅ。最適化、完了」
体中の細胞が活性化し、視界が冴え渡る。
ステータス画面はまだ表示されないが、今の私は初期レベルでありながら、全ステータスが限界突破(リミットブレイク)している状態だ。
さて、時間はあと十分。
私は再び体育館へと戻る。
屋根の上に登り、時計塔の影に身を潜めた。
やがて、その時が来た。
十、九、八……。
空が、ガラスが割れるような音を立てて亀裂を生む。
……一。
「ギシャアアアアアア!」
空気が凍りついた。
体育館の屋根が巨大な爪によって引き裂かれ、黒い霧の中から、体長五メートルを超える「ブラッド・オーガ」が姿を現した。
阿鼻叫喚の地獄が幕を開ける。
逃げ惑う生徒、腰を抜かす教師。
近隣の交番から駆けつけた警察官が拳銃を発砲するが、オーガの皮膚を傷つけることすらできない。
「助けて……!」
一人の女子生徒が、オーガの棍棒に押し潰されようとしていた。
一周目の世界で、私の目の前で死んだ親友だ。
「二度目はないと言ったはずだ」
私は時計塔から跳躍した。
重力に従うのではない。空気抵抗を利用し、最短距離でオーガのうなじへと滑空する。
手に持った星断のダガーに、極限まで圧縮した魔力を流し込む。
「絶命一閃」
音もなく、銀色の閃光が走った。
着地した私の背後で、オーガの巨体が静止する。
次の瞬間、オーガの首がゆっくりと滑り落ち、噴水のような返り血を上げて絶命した。
静寂が訪れる。
血の海の中で、制服を一切汚さずに立つ私を、誰もが呆然と見つめていた。
警察官も、生徒たちも、言葉を失っている。
「……ターゲット、排除。周辺に生存反応多数。まずは成功か」
私はナイフを鞘に収め、機械的に状況を確認する。
この程度のボス、私にとっては準備運動にすらならない。
すると、瓦礫の陰から一人の男子生徒が歩み寄ってきた。
「君、今の動き……。ただの高校生じゃないだろう? 僕は一条。一条ハルトだ。君の力、世界のために貸してくれないか?」
端正な顔立ちに、どこか尊大な視線。
一条ハルト。
後に「英雄」と呼ばれながらも、人類最後の大戦で私を背後から刺し、敵側に寝返った最悪の裏切り者だ。
彼はまだ、自分が将来選ばれる立場だと思い込んでいるらしい。
差し出された手を、私は一瞥した。
その瞳に宿るのは、慈悲でも敵意でもない。
ただ、道端に転がっている生ゴミを見るような、純粋な軽蔑だ。
「……馴れ馴れしく話しかけないで。不愉快だわ」
私は彼の手を無視し、肩をぶつけて通り過ぎる。
今の彼など、殺す価値すらない。
それよりも優先すべきは、一時間後に新宿に現れる伝説級のゲートを、発生と同時に潰すことだ。
混乱する校門を抜け、私は次の戦場へと歩き出す。
カクヨムで一位を取るような物語なら、ここからが盛り上がりどころだろう。
だが、これは物語ではない。
私の二周目、人類最速の復讐劇だ。
「さて、次は誰を救おうかしら」
可憐な女子高生の皮を被った最強の兵士は、春の陽光の中へと消えていった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
あとがき
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