あなたと夢の殺人館
涼森巳王(東堂薫)
一章 夢のなかへ
第1話 霧の館
あなたは夢を見ています。
あたりは真っ白な霧でした。腕をあげると自分の指先も見えないほどです。
長袖を着ていましたが、コートは身につけていません。衣服が霧にぬれて冷たく、ふるえが止まりません。このままでは低体温症で死んでしまうでしょう。
どこかに休める場所がないかと、濃霧のなか歩き始めます。何も見えないので手さぐりです。急に目の前に黒い人影が現れ、ギョッとしました。が、よく見れば、それは樹木でした。幹が白いので白樺でしょう。
どうやら、ここは森です。一、二メートルおきに樹木が行手に現れます。ぶつからないよう進んでいくうちに、遠くに火の玉が見えました。
あなたは一瞬、ドキリとしました。昼か夜かもわからない濃い霧に包まれた森。自分以外、誰もいないらしい大自然のなかで、とつぜん怪異にあったのですから。
が、その光は霧に乱反射した、ただの街灯のようです。あるいは家屋からもれる明かり。
寒さに凍えていたあなたは安堵のあまり、その場にしゃがみこみそうになりました。
あれが家なら休ませてもらえる。自分の持ちものはなくしてしまって何もないが、あそこまで行けば電話を借りられるだろう。
そう考えて、あなたは急ぎました。霧でぬれた草や落ち葉に足がすべり、何度もころびました。寒さで冷えた体に鈍い痛みが走ります。それでも、痛みより光と安息を求める欲求のほうが遥かに強かったのです。
ほら、ごらんください。あなたの目の前に建物のシルエットが見えてきました。シンプルな形ですが、なかなか立派な洋館です。明かりはそこからもれていますね。
では、進みましょう。あそこまで行けば、あたたかな館でゆっくり休めますよ。
だけど、じつのところ、このとき、あなたはイヤな感じがしていました。なぜかはわかりませんが、あの館へ行ってはいけない気がしたのです。
なぜでしょうね?
あなたは以前、あの館へ入ったことがあるのでしょうか?
少し不安ではあったものの、それ以上、寒さを我慢できませんでした。とにかく、その屋敷へむかっていきます。
じょじょに霧が薄れてきました。林のあいだのひらけた場所。近くで見れば見るほど豪華な館でした。三階建てで左右対称の右翼、左翼。中央には時計塔があり、その下には丸く張りだしたバルコンがあります。
大きな屋敷ですが、照明はすべての部屋で点灯しているわけじゃありません。あなたの目に映るのは、二階の右端の部屋の明かりです。そこに誰かいるのかもしれないと考えました。
長い前庭のプロムナードを歩いていくと、車寄せがありました。その屋根の下に大きな両扉があなたを待っています。板チョコみたいなブロックの浮き彫りがあり、手をあてると冷たさに指が凍りそうです。
勝手にあけてよいのか、あなたは迷いました。
「すみません。どなたかいらっしゃいませんか?」
扉に金色のライオンが丸い輪をくわえたノッカーがとりつけてありました。その輪をにぎり、コンコンとドアをたたきます。が、それでも誰も出てくるようすはありません。
(どうしよう? 軒下だから、森のなかよりは寒くない)
このまま、この車寄せの下で休むべきか、あなたは迷いました。扉には鍵がかかっているだろうと思いこんでいたからです。試しに少し押してみました。扉に鍵はかかっていません。
あなたには二つの選択肢があります。
1、車寄せの下で休む。
※こちらを選ぶなら2ページへ→
2、扉をあけて屋敷へ入ってみる。
※こちらを選ぶなら3ページへ→
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