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結婚していた方が、一人暮らしをしていた方が偉いとか、覚悟決まってるとかいないとか、なんで皆、そんなに気にするんだろうね? 褒めて欲しいのかな? 苦労を受け入れて欲しいのかな?

そんな疑問をナチュラルに投げるのが鏡花である。武士の用に覚悟決まっている様で、子供の用に無垢で、そんな不思議な哲学的生き物である。


ある日の事、準備に手間取って後から来た鏡花は、前髪に寝癖を付け、ふらりと外に訪れた。寝癖直しも、ヘアアイロンも一切使わず、特に気にも止めないその姿は、他者が見たら訝しげな顔をする事であろう。実際、俺達の友人はせっせと小言に励んでいた。

俺も指先で軽く弾き、寝癖を指摘する。

「街ゆく人なんか誰も見ないよ。瑠衣も気にしないかと思ってた。だからマナー的には問題ない」

呆気らかんと言うその様は相も変わらず、自分の中での理解が全ての様だった。

「皆さ、寝ぐせ直したり、化粧したり必死にやるけどさ。接する人が何一つ気にしなかったらやる必要さえないんだよ。今回、瑠衣は気にしたから直さなきゃ駄目だったけど。

……皆、褒めて欲しいのかな?」

褒めて欲しい。つまり承認して欲しい。自分が行った分の対価が欲しい。人間としての欲求であろう。けれども鏡花はそんな感情的な一面よりも、理論を優先する癖があるので、そこにばかり目がいくのだろう。

「子供の頃からの癖だろ。頑張ったら褒められたい」

「うん。そうだね。だから、結婚して、一人暮らしして、苦労話が世に溢れ、それが更に発展して、見下すとかされるとかの話は、多分単純に褒められたいんだね。

私からしたら、どうでも良いけれど。だって見ず知らずの、私の姿さえ知らない人にとやかく言われる筋合いないもん。責任もとってくれないもん」

興味がないのである。単純に。万人に一切の興味も愛もないのである。ただあるのは、人の思考と行動の根源。相手が何を思い、何を望むかである。

「素直に言えば良いのに。『褒めて。受け入れて』って。素直じゃないから。よく分からないなぁ。人間って」

ずっと素面だった。整えられてない前髪を気にしている時だけ眉間に皺が寄っただけで、ずっと素面だった。

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