エルフの王女と契約を交わした俺は、世界を美しく狂わせる
境ヒデり
プロローグ
――これは、今となっては昔の事。
世界を救えなかった英雄と、その契約者の最期の記録。
「俺達ここで死ぬんだろうなぁ……」
ふわぁと無気力な
「ふふっ、怖いんですか?珍しく弱気ですねぇ」
からかうような目線を向けてクスクスと笑う
「大丈夫……一人じゃないですよ。もし死んでしまっても、その時は一緒です」
明るい素振りで振舞いながら優しい声音で言う
そして、無機質な声音で、問う。
「……これは人類の罪だ。お前が巻き添えになる必要は……ないんだぞ?」
「はぁ……私が一緒じゃなかったら何にもできないくせに、今更それ言います?」
溜息をつきながらムスッとした表情を浮かべた
「……それは、間違いない」
手を自身の頭部に添え、男は苦笑——否、楽しそうともとれる笑みを
「……私は、あなたと死ねるのならそれは本望と言えます。……これは本当に、最初で最期に言葉として伝えますが……」
そして、ほんの少し紅潮した頬を隠すように、くしゃっとした照れ笑いをしながらその言の葉の続きを
「私は、あなたが大好きです。あなたは……私の全てです」
ずっと言いたくて堪らなかった、しかし、素直になれずにこんな死ぬ間際でしか伝えられなくなってしまった感情を、嘘偽りなく言葉にする。
男は、少し驚いたように
肌寒いこの季節に、暖かい風が頬を掠める。
そして、次は男の方から、エルフの華奢な細身の身体をぎゅっと強く、強く抱きしめた。
「俺も最初で最期だから言うけど、その……好きだ。…………あー!恥ずかしい!やっぱ、こういうのは性に合わん!」
「ふふ、本当に最期まで不器用な人ですねぇ……もう、二度と言えませんよ?もっと言っておかなくて大丈夫ですか?」
声音だけは精一杯気丈にしているものの、この男からずっと聞きたかった、言われたかった言葉をかけられ、こんな状況といえど高揚と喜びが
「良いよ……きっと、充分過ぎるくらいに伝わっただろうしな」
男は、
ほんの数秒の——まさしく刹那という、瞬間として捉えることが可能であろう時間の沈黙が、場を一時的に支配する。窮屈で、動きようのない沈黙。その一瞬ではもちろん、状況も情景も、二人の姿勢さえ変化はなかった。
「……この目を開けたら、また見たくないものと向き合わなきゃいけないのか」
ぽつりと、誰へ言うでもない言葉を、この世界の誰かに縋るように一言、呟いた。
そして、ゆっくりと目を開いた男は、今視界に映っている世界を潤んだ瞳に焼き付ける。
「よし、行くか……」
そう言い、右手の平を大きく広げた男は、暗雲が覆う空を見上げる。その顔は、清々しくも、やるせなくも映った。
「まぁ唯一の心残りは、この時代の遺恨を後世に残してしまうことだよなぁ……あの化け物、魔力高すぎて封印しきれないし……」
「……きっと未来にも、私達以上の最強のパートナーが現れてどうにかしてくれますよ。だって、私達がいるのだから」
「……そうだな。そう信じるしか、ないよな」
やるせなく答える。
そして、ほんの少しだけ口の端を吊り上げた男の右手の平が光の粒子に包まれ、それに共鳴するかのように、
「さてと。じゃあ、覚悟決めたし行くか!言ったからには、地獄まで付き合ってもらうぞ?」
自らの両手を絡ませ、祈りを捧げる仕草を作る
「えぇ!あなたとなら地獄だって!」
「
詠唱にも近い文言を唱えた瞬間、エルフの身体は輝きを保ったまま飛散し、その光の粒子は、一本の美しい
その
——まぁこの封印も、せいぜい二百年とかそこらが限界か……それ以前に、俺がなんも出来ずに死んだら、人類全滅で終わるけど。
先の未来へと、願いを託す。
人類が犯してしまった過ちの清算と、悠久の平和を。
自分達が何よりも欲した、愛する人間——否、愛する者と紡ぐ、当たり前という名の平和を。
「もう一回くらい、言っとけば良かったかな……」
薄暗く草木は枯れ、人の気配すら感じさせない荒野に向けて、男は最期にボソッと呟いた。
「……愛してる」
──その封印は現代、少しずつだが確実に、鎖が音を立てて剥がれ落ちている。
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過去作をカクヨムコンテスト用に再編しました。
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