ミレンダマシィ

アキイロ

ハジマリ


 視界が、赤に侵食されていく。


 じわり、じわりと。

 まるで内側から滲み出した血が、世界そのものを塗り潰していくように。


 ――どうして。


 どうして、こうなったんだっけ。


 思考を辿ろうとすると、指の隙間から零れ落ちるように、記憶が形を保てない。


 遠くで、誰かが叫んでいる。


 怒鳴り声なのか。

 泣き声なのか。

 それとも――懇願か。


 音が歪み、引き伸ばされ、

 水の底から聞いているようにくぐもっている。


 やめて。


 そんな言葉だった気がする。


 ――悲しまないで。


 どこからか、そう囁く声がした。


 優しい声だったはずなのに、

 ひどく冷たく感じた。


 悲しまないで……?


 誰が。


 誰を。


 そもそも――誰が、悲しいんだ?


 答えを探そうとした瞬間、

 胸の奥が、ずきりと軋んだ。


 痛みなのか、後悔なのか、

 それすら区別がつかない。


 赤が、さらに濃くなる。


 視界の端が溶け、

 形あるものが、意味を失っていく。


 音も、言葉も、感情も。


 すべてが、同じ色に沈んでいく。


 意識が――


 落ちる。


 いや。


 引きずり込まれる。


 底の見えない暗闇へ。


 逃げることも、抗うことも許されず、

 ただ、重力だけが支配する場所へ。


 そこで最後に残ったのは、

 言葉にもならない感覚。


 ――ああ。


 自分は、

 もう戻れない。


 そう理解した瞬間、

 世界は完全に、塗り潰された。









 ミレンガアルカ?

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