復讐のバトンタッチ

リラックス夢土

第1話 ようやく解放されると思ったのに



「はい! バトンタッチ! 今日から君が魔王ね」



 俺は暗闇の中、自分は魔王だと名乗った少年からバトンタッチされた。



「じゃあ。後は側近のノアに話を聞いてね」



 少年の姿が暗闇に消える。

 俺はしばらく少年からバトンタッチされた自分の右手を呆然と見つめていた。






 俺は松嵐まつあらし幸人ゆきと

 今日は俺の高校生活最後の日。


 そう高校の卒業式の日だ。

 何度となくこの日を夢見ていた。


 この胸くそ悪い想い出しかない綺麗な海に浮かぶ小さな離島を離れられるこの日を。




 俺の実家は大海原に浮かぶ離島にある。

 よく都会の連中は島に住んでると言うと「海があって山があって空気が美味しくて魚も新鮮で最高!」なんて言うけど実際にそこで生まれ育ってみろと俺は言いたい。



 閉鎖された空間。

 変わらない同級生の面子。

 なんだか分からない風習に親戚付き合いの多さ。



 噂には尾ひれ背びれが付くのは当たり前。

 同じ苗字ってだけで話が広まっていく間に本当に死んだ人と間違って「あの人死んだらしいわよ」と別の人物が死んだことにされることもある。


 

 俺にとって不幸だったのは保育園から高校生まで同級生の面子が変わらなかったこと。



 保育園、小学校、中学校、高校とあるのにクラスは一クラス。

 外部からの転校生もいない。



 そうなるとどうなるか分かるか?

 保育園の時にできたカースト制度が高校生まで続くってことだ。



 俺は運動ができなかったこともありどんくさいと思われて保育園の時にカーストの最下層になった。

 小学生の頃から言葉のいじめは当たり前だし靴を隠されたり自転車の鍵を海に捨てられたり俺が借りた図書室の本を誰かが盗んで破いてゴミ捨て場に捨てたから先生に俺がやったと思われて怒られたこともある。


 学校の先生は島外から来る人間がほとんどだが頼りにはならない。

 俺がいじめを受けてると言っても「反応するからいじめられるんだ」と言われていじめに耐えていても同級生からはその耐えてる姿がキモイと言われる。


 それに学校の先生は生徒の親に逆らえない。

 昔、小学校の時の担任が生徒の親と喧嘩して地域から村八分にされて僅か一年で島を出て行った。


 だから先生たちは生徒の親の顔色を伺って三年間の赴任期間を無事終えて島を出て行くことしか考えない。

 そんな先生たちは俺がいじめを受けても見ないフリだ。



 下手に俺をイジメてる生徒の親に注意すればトラブルになるからな。

 誰でも自分の身が可愛いってことさ。



 中学生になるとさらにいじめはエスカレートした。

 雑巾を口に入れられて吐きだすとお腹を殴られる。


 中学生にもなると知恵がついてくるから外から見えるところには傷をつけない。

 俺のお腹は痣だらけだった。


 

 じゃあ、親は助けてくれるかって?

 甘いねえ、綿菓子のように甘い考えだ。


 俺だって中学一年生の時に母親に「いじめられてる。死にたい」って訴えたさ。

 そしたら俺の母親は泣きながら「そんなに死にたいならあなたを殺して母さんも死んでやる」って言ってきやがった。


 俺は俺をいじめている奴らのことをどうにかして欲しかっただけで母親と心中する気なんかまったくなかったのに。


 結局、俺は母親に訴えることは止めた。

 そしたら暢気な俺の母親はそれから一年後に近所のおばさんにこう言っていた。



 『うちの幸人はいじめられていたけれど自分で克服したわよ』って。



 笑わせるな。いじめはずっと続いてるわ。お前に言わなくなっただけだよって何度も心の中で母親を罵った。

 親だって俺を助けてくれないとなれば最後の手段は高校を卒業して就職のために島を出る方法しかない。


 何しろ島に住んでる限り島内で引っ越したって学校は転校にならないから転校していじめから逃げる手段もできない。



 なあ。これでも「島の暮らしに憧れる」って言えるか?



 そして俺は今日高校の卒業式を無事に終えた。

 卒業後に都会での一人暮らしするアパートと小さな会社だったが就職先も決まってた俺は人生で初めて自由を手に入れられる嬉しさに感激すらしてた。



 そこへカースト制度の頂点に君臨する同級生の右藤うどう恵一けいいちが俺の前に現れた。

 俺の感激も凹んでしまう。


 こいつには保育園から高校までいろんなイジメを受けた。

 同級生も一緒になって俺をイジメるのはもはや日常になっていた。

 体に覚え込まされた恐怖の数々が俺の体を動けなくさせる。



 卒業したのにまだ俺に用事があるのか?



 俺は警戒心をMAXにして右藤を見た。



「よお。幸人。楽しそうだな」


「なんか俺に用事ですか?」


「いやあ。お前みたいなドジでのろまな亀が無事に高校を卒業したなんて思えなくてよ。ちょっとお前の卒業証書見せろや」



 右藤は俺の手から卒業証書の入った筒を奪う。



「返せよ!」



 俺は慌てて右藤に掴みかかった。



「そらよ。返してやるよ!」



 右藤は俺の卒業証書の筒を思い切り遠くに投げた。

 筒は校門の外の道路に転がる。



 やべえ。早く取らないと車にでも踏まれたら大変だ。



 俺は慌てて道路に飛び出し筒を拾う。

 その瞬間激しいブレーキ音の後、俺の体は宙を舞い俺の意識は暗闇に呑み込まれた。






 俺は暗闇の中歩いていた。



 ここはどこだ?



 暗闇以外何もない世界。

 俺は歩いていたが段々と歩いている感覚すらよく分からなくなってくる。



 何なんだ、ここは? 真っ暗で何も見えない。

 誰もいないし建物の中なのか外なのかも分からない。



 不安と恐怖に押しつぶされそうになった時、突然目の前に扉が現れた。



 わ! びっくりした。なんだ、この扉は?



 驚きながらも扉に近付くと扉の中から声が聞こえる。



「次の方、どうぞ」



 次の方って俺のことか?



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