第3話 架空のお話、デートプラン

セラピナが嬉しそうに手を上げる。自分の好きな話が続いて嬉しいのだろう。

 

「はいはーい!私からね!私は買い物デートがしたい!その代わり、映画館とか、ゲームとかは相手の好きなものをしてもらうよ!気持ち良く遊んでもらってから、気持ちよく払ってもらわないとね?」

 

 途中まで、いい話だった。

 

「うちの妹はとっても優しいからね」

 

 それを妹より誇らしげに語る姉。

 

「次言いたい奴は?……俺でも言うか」

 

「いや、兄さんは言わなくていいでしょう。

 どうせヘリだのプライベートジェットだの、貸切とだのいい出すんですから」


「おいおい、俺をそこらの成金扱いすんなよ。俺だってプライベートは人目につきたくないし、普通に」


「ダメです。発言は許しません」


 まだ何かいいたそうではあったが、大袈裟に肩をすくめる。


「俺が話すと、ケティス坊やが嫉妬で爆発するからな。大丈夫だ弟よ、俺は彼女がいても変わらず遊びに来てやるからよ」


 ウインクをスルーしていると、ルクが口を開いた。


「僕は恋とか愛とか、無駄だと思っているけど。時間を一緒に過ごすなら、図書館で一緒に勉強するのがいいと思う」

 

 静かな淡々とする声に、それでも提案したこと自体に皆が興味を示す。

 

「どうして?セラピナの聞いてると、楽しく盛り上がりそうなところに行く方が、失敗なさそうだけど」

 

「僕が経験がないから、相手に提案できない。でも、学生って立場だったら、頭のいい子とは一緒に興味のある本を語れるし、勉強ができない子なら、その子に合わせた本を一緒に探して、勉強のきっかけができる」

 

「確かに、女の子は一緒にいるってことが大事だし、ちゃんと見てくれてるなって思うかも!」

「うちの弟はさすが、世界一頭がいい」

 

 具体的な恋愛分析を入れる妹と、漠然と広大なスケールで褒め称える姉。弟は2人の評価を気にしてはいないようだ。

 私も感想を伝える。

 

「いいですね、学生らしくって」

「子供って馬鹿にしてる?」

 

 褒めたら言葉のナイフが飛んできた。

 ルクは非常にクールな子なのだが、気がついたら私にだけ態度がよそよそしい。

 でも、セナの3姉弟は両親と死別しているし、母親代わりのセナが剣技やトレーニングを教わりにきたり、雑談しにきたりしにきているのだ。

 姉の師に嫉妬しても当たり前か。

 微笑んだら胡乱な目で見られた。

 こういう表情、長姉と似ている気がする。

 

「で?僕のこと馬鹿にしてるケティスは、さぞいい案あるんだよね」

 

「馬鹿にしてませんよ。微笑ましいなと思っているだけで。ちょ、ちょっと待ってくださいね。まだ考えつかなくて」

 

 焦るほど何も思いつかない。子供たちが話しているのに、大人がスラスラ言えないというのもおかしな話だ。

 

「あたしも言わなきゃだめかな。恋人とか作ったことないし、作る気もないけどさ。とにかく、一緒に楽しむために考えられること言えばいいんだよね」

 

 弟子が奥気もなく質問する。

 

「そうだな。結局、プレゼントとか、デートとか、友人のお祝いとかもよ、全部同じだと思うぜ」

 

「……あたしは友人もいないから、合ってるか分からないけど。例えば、一緒にランニングとか、ジムとか、トレーニングとかでもいいのかな。そりゃ、運動苦手な人もいると思うけど」

 

 セナがチラリと見た先のルクは黙っていた。セナとルクは対照的な姉弟で、ルクは勉強が得意な代わりに本当に運動が苦手だ。会話自体はルクが受け止めて合わせて会話しているように見える。

 

「いいんじゃない」

 

 そして多分、いやかなりセナに甘い。

 セナに厳しくできるのは私しかいないのかもしれない。

 

「でも、トレーニングとか、それって私が教えてることを人に教えているってことじゃないですか」

「あはは、まぁそうなんだけど……」

 

 セナがあはは、と苦笑する。

 ……別に問題はないけれども。

 

「そうだな、ケティス、お前は素晴らしいアイデアの出発点だよな」

 

 とても楽しそうないい笑顔だ。

 とても嫌な笑顔だ。

 

「ラストだよな?」

 

 そう言われ、言葉に詰まる。

 何を言おう。

 何を言ってもダメな気もする。

 むしろ、最初に発言しておけば言いやすかったのかもしれない。

 ぐるぐると焦りだけが頭に巡る。

 皆のニヤニヤとした、淡々とした顔、その中で何か口を開かなければならない。

 

 セナと目が会った。普段ならふざけてたり、よく分からない、といった不可解そうな顔を浮かべているのだが。

 今の彼女は、なんて喩えれば良いのか。

 穏やかだった。

 こちらを見ているようで、それでいてどこか遠くを見ているような。


 一瞬、先ほど見た夢の中の星空が思い浮かんだ。


 でも、もう一度セナの顔を見て、違う回答の方がいい気がしてきた。


 「……2人で海を見に行きます。波打ち際で砂浜を歩き続けたり、泳いだり、なんでもいいです」

 

 彼女はぱちりと瞬きした。

 セラピナが頬を膨らませる。

 

「え〜、ケティスお兄ちゃんだから、100本のバラを用意するとか、ドレスを用意して舞踏会で踊るとか言ってくれるかと思ったのにい」

 

 心外だ。

 私も花を最初に考えたけれども、先に回答された内容とスケール感が違うと思って言えなくなってしまったのだ。

 

「案外普通だね。突拍子もないかと思ったのに」

 

 本当に言わないでよかった。

 

「……あたしはいいと思うよ。で?優勝とかあるわけ?」

 

 セナが皆を見渡すと、誰も知らない、という。

 それはそうだ。

 どうせ私を揶揄うために始めただけなのだろうから。

 

「そ。じゃ、セラピナとルクは師匠とクリ兄にボードゲームで遊んできてもらいな。あたしは皿洗ってるよ」

 

 立ち上がるセナに慌てて私も手伝う、と声をかけるとうん、と頷くので、ついていく。

 もしかしたらセラピナ達についていけば、また恋愛話に付き合うことになるかもしれない。

 それは避けたいところだった。

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