神さまが眠るあいだに ーー名もなき星が落ちる夜
荒涼 素依
ケティス編:騎士の英断
プロローグ:霧中の崖
――これは、私と貴方のための物語。
僕は、夢を見ていた。
僕は森の中を2人で走っていた。
吐き出した白い息が暗い森の中で広がり、僕たちの来た方向に置いていかれる。
僕に手を引かれ、苦しそうな息で走る少女を見る。
自分のいつもの歩幅より大きく、いつもより速く走っていることで何度も転倒しそうになっていた。
追いつかれれば、きっともう小さな手は離れてしまう。
ずっと手を握っている、そう心に誓ったんだ。
でも、僕も今は抱え上げる体力がない。
これ以上は危ないと、奥に見えた明るい開けた場所に向かって足を止めるとそこは崖だった。
見下ろすと、足が竦むくらいの高さがある。
僕の感覚が正しいかは分からないが、落ちたら危ない――それだけは分かる。
星空が優しく光るその下で、崖下のその向こうにも森が続いていた。
遮るものがなく、風が時折強く吹き、冷たさを肌に撫で付けた。
最初は汗をかいていた少女も少し経てば、寒かったのか、体をぶる、と一度震わせる。
僕の上着を少女の肩にかける、
それでも足りず、背後から包み込むように抱き寄せた。
冷たくて、
暖かくて、
寂しくて、
不安と幸せで満ちていた。
世界は、それだけだったし、それで十分だった。
何を言ったか分からない。
ただ、こんな時間が続けばいいと、あと少しでもいいから続いてくれと、星座にもならない微かな光を放つ星達に祈った――そのはずだ。
だから、おかしい。
誰かが叫んだんだ。
――間違っている。
――目を覚まして。
誰が言ったのか。
間違っていない。そのはずなのに。
少女の髪が、ワンピースが、空に向かってはためく。
星を掴むように手を伸ばして、目がまん丸に見開いている。
それが次の一瞬に映った、僕のすべての世界だった。
考える間もなく、僕の身体が傾き、地面にを離れていた。
誰かの絶叫が、耳をかすめる。
――間違っている。
その声は胸の不安をぐちゃぐちゃにする。
間違っている。
たとえ、そうだとしても。
――お願いだから目を覚まして。
知らない懐かしい声、泣きたくなるような。
それでも、この子のために、躊躇ってはいけない。
伸ばされた指を掴む。
あとは、ただ小さな身体を抱きしめるだけ。
それ以外は、いらない。
考えなくていい。
僕は、夢を見ている。
――目を覚ませ!!
『そんなに眠りたいなら、ずっと眠っていればいい』
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