現代兵器チートだけど「弾代」が高すぎて万年赤字です。~「素材回収」の聖女と、「ミサイル特攻」の幽霊王女と一緒に、世界一せちがらい冒険始めました~
@pepolon
第1話 その銃弾、一発につきおにぎり一個分
「おい、知っているか? 今、お前が外したその9mmパラベラム弾……明日の俺の朝飯代だぞ」
湿っぽいダンジョンの暗がりで、俺は愛銃のベレッタM92Fを恨めしげに見つめた。
足元には、カランと乾いた音を立てて転がる空薬莢。
目の前には、汚い棍棒を振り回すゴブリンが一匹。
視界の端に、半透明のシステムウィンドウが無慈悲な数値を表示する。
『ターゲット:ゴブリン(推定報酬:500 G)』
『現在残高:32000 G』
この世界の通貨レートは、ざっくり1G=1円。 わかりやすくて素晴らしい。
つまり、目の前のゴブリンの命の値段は500円だ。ワンコインランチだ。
対して、俺のハンドガンの弾代は、一発100G(100円)。
一発で仕留めれば400円の利益。二発なら300円。
だが、俺は焦って既に四発外している。
「……現在、マイナス400円。次で当てても利益ゼロ。外したら赤字」
俺の手が震える。
命のやり取りをしているはずなのに、脳内ではそろばんを弾く音が止まらない。
「くそっ、なんで異世界に来てまで、こんな胃が痛くなる計算しなきゃなんねーんだよ!」
俺はヤケクソ気味に引き金を引いた。
乾いた銃声。
ゴブリンの頭が弾け飛び、その体が崩れ落ちる。
『撃破報酬:500 G』
『支出(弾薬費):500 G(計5発)』
『今回の収支:±0 G』
「……はぁ。タダ働きかよ」
俺は深くため息をつき、その場にへたり込んだ。
俺の名前はグレン。日本でFPS廃人をやっていた記憶を持ったまま、この世界に放り出された「転移者」だ。
与えられたスキルは『現代兵器召喚』。最強のチート能力だが、武器も弾もすべて「現地通貨による課金制」というクソ仕様だった。
先日、Sランクパーティを追放されたのも、この「金」が原因だ。
『お前さぁ、いちいち弾代の請求書回してくるのやめてくんない? 金買い増しなんだよ』
そう言われて放り出され、今はソロで日銭を稼ぐ日々。
「……帰りたい。エアコンの効いた部屋で、コーラ飲みながらゲームしたい」
その時だった。
ズシン、ズシン、と地面が揺れた。
通路の奥から現れたのは、巨大な豚の化け物
――オーク・ジェネラル。しかも取り巻きが20匹。
「冗談だろ……今の俺の装備じゃ豆鉄砲だ」
逃げようとして、足が止まる。背後は行き止まりだ。
戦うしかない。だが、ハンドガンじゃ無理だ。
今の俺の残高は32000G(3万2千円)。
この状況を打破できる強力な兵器――例えば『RPG-7(対戦車擲弾)』の呼び出しコストは500,000G(50万円)。
……足りない。圧倒的に足りない。
オークが棍棒を振り上げる。死ぬ。
その瞬間、システムウィンドウが赤い警告色に点滅した。
『警告:残高不足。緊急キャッシング(リボ払い)を使用しますか?』
『※年利 18.0%』
「……やるしか、ねえかああああ!」
俺は血の涙を流しながら『YES』を連打した。
借金成立。同時に、肩にズシリと重い鉄の塊が現れる。
50万円の借金と引き換えに手に入れた、起死回生の一撃。
「いいかお前ら……この一発にはな、俺の『未来の労働』が詰まってんだよォォッ!!」
引き金を引く。
轟音と共にロケット弾が吸い込まれ――
ドォォォォォォォォォォン!!
地下道が揺れ、爆炎が全てを飲み込む。
凄まじい熱波。
オークの群れは断末魔を上げる暇もなく消し飛び、通路の一画が更地になった。
静寂が戻る。
俺はガクリと膝をついた。
「……勝った。けど……」
目の前に広がるのは、黒焦げのクレーター。
敵は全滅。つまり、売れば金になる「素材」も全焼。
残ったのは、借金50万円+利息だけ。
「……終わった。俺の異世界生活、詰んだ」
俺が絶望に浸っていると、黒煙の向こうで「ガサガサ」と音がした。
生き残りか? 俺は慌てて空っぽの銃を構える。
だが、そこにいたのは魔物ではなかった。
ボロボロのローブを纏った、小柄な少女だ。
灰色の髪はススだらけ。顔も真っ黒。
彼女は四つん這いになり、まだ熱いくすぶる地面に顔を押し付けていた。
「ハァ……ハァ……! いい匂い……!」
「……え?」
少女は俺のことなど無視して、黒焦げになった地面の灰を指ですくい、あろうことか舌先でペロリと舐めた。
「んんっ! この苦味! そして舌に残るザラつき! 間違いありません!」
「お、おい待て! 何食ってんだ!? 腹壊すぞ!」
俺が止めようとすると、彼女はバッと顔を上げた。
ススだらけの顔の中で、黄金色の瞳だけがギラギラと輝いている。
「あなたですね!? この素晴らしい『超高温処理』を行ったのは!」
「は? いや、やりすぎて素材が全部燃えちゃって……」
「何言ってるんですか! 燃えたのがいいんですよぉぉ!」
少女は猛然と俺に詰め寄り、俺の手をガシッと両手で握りしめた。
近い。そして少し焦げ臭い。
「見てくださいこれ! オークの脂肪分が一瞬で炭化して、純度99%の『魔炭』になってます! これなら燃料として、通常のオーク肉の5倍……いいえ、10倍の値段で売れます!」
「じゅ、十倍!?」
「はい! しかも見てください、この飛び散った骨片! 普通なら解体が面倒で捨てられる部位ですけど、ここまで粉々になっていれば、そのまま『カルシウム肥料』として農家に卸せます!」
彼女は恍惚とした表情で、俺が「ゴミ」だと思って絶望していた焼け跡を見回した。
「すごい……宝の山です……! 私、こんな綺麗な破壊跡、初めて見ました……♡」
「……」
こいつ、変だ。
普通、爆心地を見て「うっとり」する奴がいるか?
だが、彼女の言葉が本当なら――。
「……なぁ、あんた名前は?」
「私ですか? アリスです! さっき『地面のゴミばかり拾って貧乏くさい』ってパーティを追放されたばかりの、無職の聖女です!」
彼女はニカッと、泥だらけの顔で眩しい笑顔を見せた。
そして、懐からボロボロの「契約書」のような紙を取り出し、俺に突きつけた。
「あの、あなた凄いです。私と組みませんか? あなたがドカーンとやって、私がシャカシャカ回収すれば、私たち億万長者になれますよ!?」
「……億万長者」
その甘美な響きに、俺の心が揺れる。
俺はチラリと彼女を見た。
見た目は薄汚いし、言動もかなりアレだ。地面の灰を舐めるような奴だ。
だが、この借金まみれの現状を変えられるなら、悪魔とだって手を組む。
「……条件がある」
「はい! なんでしょう!」
「俺の借金、50万と利息。……まずはこれを返すのを手伝ってくれ」
アリスは一瞬キョトンとして、すぐにポンと俺の肩を叩いた。
「任せてください! この周辺の灰を全部集めれば、51万Gにはなります!」
「マジかよ」
「マジです。さあ店長! 善は急げです、ホウキとチリトリを召喚してください!」
「店長……? 」
こうして。
借金を背負った現代兵器使いと、ゴミを舐める変人聖女。
世界一せちがらい、最底辺からの成り上がりパーティが結成されたのだった。
『現在残高:−500,000 G(借金)』
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