学校1の美少女は、恋人いない歴=年齢の私のことが好きらしい

十坂すい

第1話 学校1の美少女に懐かれています。

「燕ちゃん、燕ちゃん!」


ここはどこ……私は山崎やまざき つばめ……。

うう〜…ん、誰かに呼ばれているような気がする。


「おーい燕ちゃん」

「はっ!はいっ」


飛んでいっていた意識を取り戻した私は勢いよく返事をする。

うん?なんだかいい香り。


「もう、まだ慣れないの?初めてした時から1年も経ってるよ」


柔らかくていい匂いで、可愛い声が上から聞こえる。

ここはどこだ?私はどうなってる?

ちら……と上を見ると、そこには学校1の美少女、七雲なぐも 心花ここなちゃんがいた。




***




心花ちゃんと出会ったのは、去年の入学式。

1年生のときは同じクラスだったっけ。

もうその頃から心花ちゃんの名前は轟いていて、先輩が心花ちゃんを見にわざわざ教室まで来るほどだった。


いやぁ眼福。教室の中は女の子ばっかり。廊下だって女の子ばっかり。女子校にしてよかったぁ。


まだ幼い頃に、迷子になっていた私を助けてくれたアイドルのお姉さんに出会ってから、私は女の子が大好きになった。

そのアイドルのお姉さんはもう引退しちゃったけれど、私の女の子好きは健在だ。


今の推しはそう!りんちゃん!!

一昨年地上デビューしてからあっという間にトップアイドルまで駆け上がったアイドルグループのメンバーのひとり。

今度、握手会があるから楽しみなんだよね、うふふ。


それで、だ。

女の子が好きな私は無事、女子校に入学できたわけで。

クラスにはこれでもかというほどの美少女がいて。


私の学校生活は安泰だ……そう考えていたのが馬鹿だった。

事件が起きたのは入学式のあと。



「あの、山崎燕さん、だよね」


私は壁になって教室中を見渡そう。そう思っていたときの出来事だった。


「えと、はい……?」

「!よかった、あのね、話したいことがあって!一緒に来て欲しいの」


声をかけてきたのは例の美少女。長いまつ毛。涙袋もぷっくりしていて、私を見る目はキュルンという効果音が似合いそうだ。ふわりと巻いたツインテールがよく似合っている。


「かわいい……」


ポツリと心の声が漏れる。


「え?」

「あ、ううん、なんでもないの。一緒に来て欲しいって……?」

「その前にあのね、私のこと覚えてる……?」

「七雲さんのこと?」


こんな美少女と私が知り合いなはずはない。

だって知っていたらこんなに心臓バクバクしないし、忘れるはずないもん!


「ごめん……初めて会うと思う、よ?」


おそるおそる言うと、心花ちゃんは一瞬だけ悲しげな顔をする。


「……そうだよね!ごめんね変なこと聞いて。一緒に行きたいところ、着いてきて」

「うん」


私は過去に彼女と会ったことがあっただろうか。

それなら覚えているだろうし……きっと心花ちゃんの勘違いだろうな。私なんて覚えられるほどの子じゃないと思うし!


慣れない学校のはずなのに、心花ちゃんは迷いなく進んでいったのを覚えている。

行き先は北校舎の3階の空き教室。

なんの躊躇いもなく入っていく心花ちゃんに腕を引かれて、私も中へ入っていく。

窓際に荷物が積まれているせいで中は薄暗い。


「燕ちゃん、ドキドキしてる」

「へ……」


心花ちゃんの手が私の心音を聞いている。


「あはは、ごめんね。急にこんなところに連れてきちゃって。そりゃあドキドキするよね」


手を当てなくても聞こえそうなくらいの心臓の音。

どうすることもできなくて、私は固まる。


「ねぇでも今は、私にドキドキして欲しいな……」

「!?」



***



それからのことは覚えていない。気が付いたら保健室のベッドにいた。


そうだ、あのとき私は心花ちゃんに抱きしめられて気絶したんだった!

そして今も!!!


自分が置かれている状況がわかった途端、私の心臓はバックンバックン音を立てる。

1年経ってもまだハグには慣れないよ!


「ねぇ燕ちゃん?」

「……はい……」


まともに目を合わせられないので、がっつり下を向いたまま声を絞り出す。


「もーいい加減慣れてくれてもいいのに。好き。好きだよ燕ちゃん」


上から甘い声が降ってくる。


ダメだ!美少女の過剰摂取で死んでしまう!


「燕ちゃん大好き」


心花ちゃんの愛の言葉。それは今の私にとっては死刑宣告も同然だった。

私はへなへなと床に座り込む。


ここは物置き部屋と化した空き教室。

メインの教室がある棟からここに来るには渡り廊下を渡って3階まで上がらないといけないから、なかなか人が来ない。


それをいいことに、この心花さんは……!


「燕ちゃん、立てる?」

「うん……」


心花ちゃんが手を貸してくれて、私はなんとか立ち上がる。

手を繋ぐときの心花ちゃんの手はいつもほんの少しだけ湿っていて、緊張しているのがわかる。

手を繋ぐことに何か特別なことがあるのか、たまたまなのかはわからないけど。


「もっと燕ちゃんを堪能したいけど、もうホームルーム始まっちゃうから行こう」

「もう十分だよっ」


私たちは渡り廊下まで手を繋いで歩いていく。


「またね、山崎さん」

「うん。七雲さん」


他の生徒が見えるあたりから手を解いて、お互い呼び方も変える。

心花ちゃんいわく、この方が特別感があっていいらしい。

そして別々に教室付近に行って、他の生徒の波に飲まれていく。


これがもう1年も続いているなんて、今でも夢なんじゃないかと思っちゃう。


「……いたっ」


……どうやら夢じゃないみたいだ。


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