第4話 港町

人の足ではかなりの日数がかかるところを、二日でラテマまで着いてしまった。

そうしてラテマまで送迎され、なんなら入国手続きもしてもらった。

ついでとばかりに冒険者ギルドで身分証まで作る手伝いまでしてもらった。

どこまでもお礼だという。


「本当にありがとうございました」


冒険者パーティの面々に頭を下げる。


「まさか、高ランクパーティの方々だったとは」


「大怪我しちゃったから、説得力ないもんねー」


そう返したのは、蘇生させた人物だ。

この人が、このパーティの回復役を務めている治癒魔法使いだ。

しかし、思わぬ大怪我を負ってしまいあのようなことになったのだという。

道中、詳しく話を聞かされたところによると、どうも最近魔物が活発化しており、今までは難なく倒せていた魔物にも苦戦するようになっているのだとか。


「でもありがとねー。

君のそせ、じゃない、治癒魔法のおかげでこの通り元気になったよ!」


と、力こぶを見せてくる。


「よかったです。

じゃあ、今度こそこれで」


と、去ろうとしたのだが、まだ俺に用があるらしかった。


「馬車で送るだけだと、やっぱり割に合わないからさー。

個人的にお礼させてほしいんだ」


そう言われ、腕を引っ張られ連れてこられたのは魔法雑貨を扱う店だ。

治癒魔法使いさんは、店員となにか話をしていたかと思ったら、なんとローブを買ってくれるという。


「え、そんな!

申し訳ないです!!

こんなことをしてもらう為に、助けたわけじゃ!」


「うんうん、でもね、これでも足りないくらいなんだよ。

それに、そのローブは中古なんだろ?

しかもそのまま着てたら、余計なトラブルも招きかねない。

だから、これくらいさせてよ。

それとも、お金で受け取ってくれるの??」


お礼といって、自分のかつての給金以上の金額を提示されたら驚くし断るだろう。

でも、治癒士の言葉には一理あった。

追放者の証が着いたローブなど、いつまでも着ていられない。


「わ、かりまし、た。

お言葉に甘えさせて頂きます」


こうして俺は、予期せぬタイミングでローブを新調することとなったのだった。


「なにからなにまで、本当にお世話になりました」


俺は冒険者パーティの面々へ深々と頭を下げ、礼を言って別れた。

今までであったなかで、ばあちゃんやセレス様みたいにあったかいし、優しい人たちだ。


今後のことは何も決まっていないも同然だけれど、でも、幸先がいいと思う。


「ばあちゃんの言った通りだ」


世界は大きくて広い、とばあちゃんはよく言っていた。

いずれ見てくるといい、とも。

こんな形でそれが叶うとはおもっていなかった。

嬉しい誤算というやつだ。


風にのって、海の匂いが運ばれてくる。

これが潮の匂いなのだろう。


「まずは、魚料理を食べよう」


色々考えるのは、腹ごしらえを済ませてからだ。



観光地でもあるので、繁華街は賑わっていた。

どこに入ろうか悩む。

街道で行商人とやりとりしたお陰で、手持ちには余裕がある。

さまざまなご飯屋さんを冷やかしていて、気づいた。

一部メニューの取り扱いが中止となっている。

とある店先に出ていたメニュー表を見ていると、店員さんから声をかけられた。


「いらっしゃいませー。

あ、お客さん、もしかして刺身定食目的??

ごめんねぇ。

いま、それに使ってる魚が入ってきてないんだ。

沖の方で瘴気が発生して、リヴァイアサンが暴れてるらしくて」


このままだと他のメニューも遠からず、中止になるという。


「聖女様の派遣を要請してるんだけど。

ほら、いまあちこちで、瘴気が発生してるでしょ。

ラテマの聖女様達もてんやわんやらしくて。

いつ来てくれるやら」


「えっと、冒険者ギルドに依頼を出さないのですか?」


「漁業組合から出してるんだけどねぇ。

リヴァイアサン退治に行ってもらっても、全員海の藻屑になるらしくて」


「……そう、ですか」


「あんた、神官さんだろ?

聖女様に及ばなくても、なんとか瘴気の浄化できないか?」


先立つものは必要だ。

リヴァイアサンを相手にしたことはないが、海に生息する大きな蛇の魔物ということは知っている。


「そうですねぇ」


出来るとは思う。

冒険者ギルドで身分証も作ってもらった。

でも、俺は冒険者としてはペーペーの新人である。

そんな新人が受けられる仕事なのか、という問題がある。


まぁ、行動してみるのもありだろう。

できるなら、その刺身定食とやらを食べてみたい。

話にこそきいたことはあるが、生魚の料理なんて食べたことない。

食べてみたい、と思ってしまった。

あちこちから観光客が来て食べるほどには美味しいのだ。


「やって……」


みます、と続けようとした俺の言葉は遮られた。

なぜなら、突如として少し離れた場所に有った建物が、魔物のブレスと思わしき攻撃を受け、吹き飛んだからだ。


途端に大パニックが起こる。

騒ぎの中、なんとか理解できたのは沖で暴れているはずのリヴァイアサンがこちらに向かって来てるということだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る