落ちこぼれ魔術師(嘘)、ユイ

◆ Side ユイ ◆


 あれは今から8年ほど前。私は両親の周囲にきりのようなものが出ている事に気が付いた。


「なんだろう、あのモヤモヤ?」


「どうしたの、ユイ?」

「ママの顔に何かついてる?」


「ううん、何でもないよ」


 両親の周りには、まるで綿あめのように柔らかそうなモヤが見えた。

 初めは「両親が特殊なのだろうか」と考えていた。だけど、よく目を凝らせばクラスメイトも先生も道行く人も、みんながきりをまとっている事に気が付いた。


「うーん」


 人によってきりの形は違っていた。そしてそれは、その人と私の関係性を示唆しているように感じられた。友人のモヤは優しそうだけど、仲が悪い子のモヤはトゲトゲしていた。



 モヤモヤが見えるようになってから3年経った。

 その間に、この能力に対する理解が深まり、正しい使い方を知った。


 この能力の正体は固有魔術〈くらき世界〉、権能は「オーラを観る事」である。

 ここで言うオーラとは、スピリチュアルな文脈のオーラとは異なり、術者に向けられた意志という意味だね。そして、分析できる範囲は、対象がどれだけ術者に心を開いているかによって変化するらしい。


 例えば見知らぬ人なら、敵意の有無しか調べられない。敵意があればトゲトゲしたオーラが観える、ただそれだけ。

 知り合いであれば、なんとなく喜怒哀楽を読める感じ。ぼんやりしてて、確実ではないけれど。

 親しい友人なら、はっきりと喜怒哀楽が分かるよ。喜んでいたらキラキラ模様、怒っていたら怒りの模様、哀しんでいたらどよよーんって感じの模様、楽しんでいたら音符模様が見えるんだよね。

 そして両親であれば、なんとなく感情が読めるようになる。このレベルまで見れるのは両親だけだね。



 この能力について、私は誰にも打ち明けていない。だって喜怒哀楽が分かるって、凄く厄介だから。


 その笑いが作り物だって分かる。その涙が嘘だって見える。

 仲良くなれば仲良くなるほど、あなたが嘘を吐いてるって知ってしまう。


 固有魔術〈くらき世界〉は、私の心の奥底、最もくらい場所に隠しておくべきものであろう。



 その後、私は魔術学園に入学する事になった。

 学園での私の評価は「魔力は多いけれど、固有魔術に覚醒していない落ちこぼれ」って感じ。ホントは固有魔術を持っているんだけど、これは秘密だから。


 それに〈くらき世界〉は決して悪霊との戦いに役立つ物ではないから、戦闘面では確かに役立たずの「落ちこぼれ」である。だから私は新しい固有魔術を獲得したいって願っており、様々な方法を模索しようと思っている。

 とはいえ、先生方が「こうすれば固有魔術に目覚めるかも?」と思案しているのを見ると、なんだか騙しているような罪悪感を覚える。固有魔術を獲得したいって気持ちは本当だから、許してほしい……!


「何か役立つ固有魔術を追加で獲得出来たらいいんだけど……。うーん」


 私が悩んでいると、一人のクラスメイトが私に話しかけてきた。


「あなたが編入生ね? 私はメメ、よろしくね! 貴族とか豪族とか凄そうな人が多くて萎縮しちゃうかもだけど、一緒に乗り越えようね!」


「あ、ありがとうございます……? わ、私はユイです、よろしくお願いします」


 そのクラスメイトはキラキラしたオーラをまとった人だった。

 まるでお姫様のように綺麗で、思わず見惚れそうになる。


 だけど、見惚れる前に想定外の事態が発生した!

 な、なんで――


(あっ、好き。あの唇に触れてみたいな。あの声で愛の言葉をささやいて欲しいな)


 ――なんでメメさんの心の声が全部聞こえてくるの?!


 メメさんとは今日出会ったばかりだよね?!

 それなのに、どうして関係値が両親よりも上なの~?!


 急に〈くらき世界〉の権能が成長したとか?

 いやいや、そんな急に成長する事は無いはず。


 困惑する私を他所よそに、メメさんは心の声を私にドシドシぶつけてくる。


(恋人になれたらいいな。結婚したいな)


 そしてメメさんはそっと目をつむって新婚生活を妄想し始めた。

 はわわわわ、何故か妄想の内容まではっきりと見えてる……!


 キスしてる、そかも大人な感じの濃厚なキスを?! ひゃあああ、一緒にお風呂に入ろうとしてるっ!

 私、メメさんの裸(妄想内)を覗き見ちゃってるー?!


 もし本当にメメさんと結婚したら、これが現実になるのかな?

 直接触れられるのかな? あの柔らかそうなほっぺに、たわわな胸に、スベスベなお腹に、魅惑的なふとももに。


 顔が熱くなるのをはっきりと感じる。私、今どんな顔をしてるんだろ。はうううぅぅ。

 そしてメメちゃんは私をじっと見つめながら(心の中で)言った。


(はぁ、可愛すぎる。決めた、この子は意地でも私のお嫁さんにしよう。むふふふ~♪)


 お嫁さんにされることが決まった?!


 そうか! メメさんの中では既に私達は婦々ふうふになってるんだ!

 だから私に心を開いているんだ! 婦々ふうふだもんね、心の扉が全開でも不思議じゃないか。


 ……いやいやいや、なんでだよぅ!?



 私が混乱していると、「聖女様」と呼ばれている子が近づいて来た。

 わお、大物が近づいてきた?! 礼儀作法とか分かんないんだけど……。


「はじめまして、ユイさん。私はリースです」


「はじめまして。ええっと聖女様?」


「リースでいいですよ。固有魔術が〈女〉なだけで、私自身は普通の女の子ですから」


 どうやらリースさんは親しみやすい感じのよう。

 よかったー、友達になれそう。そう思っていると……。


(決めた、この二人は意地でも私のお嫁さんにします)


 なんでこの人も?! わぁ、またイチャラブな妄想が始まった?!


 お風呂でイチャイチャしてる! しかも三人で! はわわわわ///

 こんなの見せられたら、今晩寝れないよぅ!


「こんにちは、あなたが編入生だね! よろしく!」

「こんにちは~。むむむ、緊張しているみたいだね~。そうだっ、この後みんなで学校の周りを散歩しない?」


((こんな私の事も、受け入れてくれるかな? 恋人にできたらなあ、結婚したいなあ))


 えーっと、カナちゃんとソラちゃんだっけ。

 この二人も?!



 いやいやいや! ホント、何が起こってるの~!?


 ひょっとすると、四人には何か秘密があるのかもしれない。

 そう思った私は、改めて四人をジッと見つめた。〈くらき世界〉、教えて!


(私の正体は、この王国の第五王女メリッサ=メル=アストロフロー。身分を隠して親睦を深め、夢の甘々ハーレム生活を手に入れる!)


(私は聖女じゃなくて、むしろせい女……。下心をしっかり隠して親しくなって、甘々ハーレム生活を送る事が夢です!)


(私は秘密結社χの魔女、ミルキーウェイの製作者。二つの意味で甘々☆モチモチハーレム生活を送る!)


(ソラは正義の魔法少女。だけど、いつかせい技の魔法少女として、最高のハーレム生活を送るぞ!)



 うわぁ、これはヒドい。

 編入初日に出来た友達、みんなハーレムを目論んでるじゃん……。


 このまま四人と仲良くしてたら、ハーレムに組み込まれる?

 可愛くて、むっつりスケベで、ちょっとポンコツなお嫁さんが4人も出来るって事?



 ……ふむ。



 控えめに言って、最っ高だね!

 私、この学園に来てよかった!!




◆ あとがき ◆




タイトルの「落ちこぼれ(嘘)」と「ヒミツを抱えた少女達」を回収し終えました!

ここまで読んでいただき、本当に本当にありがとうございます!(※まだ続きます)


さて、これ以降は基本的にユイを中心に物語が進んでいきます。ですので、“Side ○○”と明記しない限りは全てユイ視点となります。よろしくお願いします。



末筆となりますが、もしよろしければタイトル回収のご祝儀と思って、お星さまやレビューをいただけましたら幸いです。

今後とも本作をどうぞよろしくお願いいたします。


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