魔王、吸血姫の血を飲む

ゆめのマタグラ

1.魔王は力を示す

 俺は魔王。

 名をエルドラド・バーン・オルディン。

 代々魔王を務める事の多い家系ではあるが、家系で魔王を継げる訳ではない。


 力だ。


 魔王国の領土には魔人の他にも巨人、獣魔人、有翼魔人、妖精魔族など多様の種族が住んでいる。

 国の秩序を正す為の法律は整備されているが、それよりも重要視される要素がある。


 それが力。

 

 強者である事を国民へ示し、逆らう者を力でねじ伏せ、時には互いに血を流しながら戦う。

 力は単純で分かりやすい。

 だから、魔王国でも大昔より決闘が認められている。

 

 例えば――愛する娘を殺された父親は、その殺人を犯した者に決闘を申し込む。

 この場合は父親側にルールを決める権利がある。

 父親は武器を使い、殺人犯には素手のみを要求した。


 だが勝ったのは殺人犯――。

 

 その後、決闘の報酬として大幅に減刑された殺人犯は――釈放された。

 そして今日の前座として、当時裁判官だった男に決闘を挑まれ、死んだ。


 これもまた魔王国の常識――少々歪んでいるのは自覚している。

 しかし法は秩序を守る。決闘は“力の序列”を守る。魔王国では後者が先なのだ。

 

 だが俺は魔王であり、魔王であり続ける為には、誰よりも強くあらねばならない。

 

 ◇

 

「魔王、いやオルディン! ルールは承知したな!」

「我はいかなる挑戦をも受ける。そちらのルールは全て飲むと言ったはずだ」


 魔王国闘技場。

 それは都の1番中央にある、古い時代からある遺跡を使っている。

 円型の外側には観客席、中央には石製の大舞台がある。

 夜の冷えた空気は魔法の光により切り裂かれ、両者の姿は鮮明に映し出される。


『ハーイ! 今回、決闘の立会人を務めさせていただく四天王のフェリアスだヨー!』

 

 魔王四天王の1人、風霊のフェリアス。

 妖精魔族と呼ばれる種族で、その背丈は赤子ほど。

 背中には誰をも魅了するほど美しい羽根を備えており、その笑顔は子供のように無邪気だ。

 しかし、そんな見た目とは裏腹に、その内包する魔力は魔王軍の誰よりも――この俺よりも強力だ。

 だから俺自身の手で、四天王へと誘った。

 

「フェリアス様ー!」

「次はオレと決闘してくださーい!」

『ハイハイ、ありがとネー。死んでもいいならネー』


 観客席に軽く手を振ったフェリアスは、俺の方へ手をやる。


『では今宵の主賓。つい昨年、新生魔王として君臨されたエルドラド・バーン・オルディン様ァ♪』


「おおおおおおお!!」

「オルディン様ッ!!」

「この前のゴルディアス様との決闘、凄かったですよ!!」


 俺は今、腕を組んで瞑想をしているが――民の声は聞こえている。

 この歓声の量は、俺への期待の声だ。

 魔王として、1人の男として応じなければならない。


『強い男は背中で語ルッ! いよっ、魔王様ッ!』

「いいぞー!!」

「カルロスも頑張れよー!!」


『では続きましてー。前魔王軍団長、そのご子息。さらに有翼魔人族が誇る期待のルーキー。カルロス君ダァ!!』


 目を閉じていても、その迸る魔力は目を開けている時よりもよく視える。

 炎のように紅い翼と、闘志を象ったかのような逆立つ髪を持つ青年。

 魔獣の革によって編まれた袖の無い紅の戦闘服を着て、白い手袋を付けている。


「カルロス様、我々ガルーダ兄弟も応援しますぞー!」

「魔王なんかやっつけちゃって下さい!」


 片目を開くと――カルロスの名前と似顔絵が入った旗を大きく振っている、褐色の翼を持つ子供の有翼魔人だ。


「なかなか、人望があるではないか」

「オルディン!! 魔王様の息子だろうが、貴様の事は俺は認めん。旧魔王一派としてだけじゃない……お前を倒し、そして俺が魔王になるッ!!」


「おおおおおお!!」


『命知らずにも程がアルネ!! では簡単なルールを説明するネ。互いに武器の使用は認められ、このリングより落ちるか、相手が『降参』と言えば決着とナリマス』

「……そのルールでいいのか。なんだったら、片腕くらいは封じてやるぞ」

「ふざけんなオルディン! 父上の下で補佐官を務めあげたこのカルロスを! 舐めてかかった事、後悔させてやるッ!!」

 

 そう言うと、カルロスは左手の手袋を、こちらへ投げて渡してきた。


「いくぞオルディン! やぁってやるぜぇッ!!」


『では魔王様とカルロスの決闘。開始ダァァァ!!!』


 ゴォォンッ――!!

 闘技場に、開始を鳴らす大きな音が響き渡り、場内は歓声に包まれるのであった――。

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