明治マヨネーズ事始~明治時代の文献からマヨネーズを探してみた

中崎実

第1話:西洋料理指南(明治5年)のマヨネーズ?

『西洋料理指南』という本は、どこかで耳にしたことがある方も多いと思います。

 日本最古のカレーのレシピが載っている本です。

 著者は敬学堂主人(筆名)。当時の西洋料理の紹介ができる時点で、たぶんそれなりの地位にいた人でしょうが、詳しいことは判りません。


 そしてその本の中に、マヨネーズらしきものが記載されています。

 マヨネーズという名称は出てきませんが、「なますせいせんには」の項に登場します。

 まず、これを引用してみましょう。


「食する時には生卵黄子きみ二箇を攪混かきまわし「サルテ」油大一匙を入れてまたよく攪混かきまわ大一匙及び芥子小一匙を加えたる汁を作り別器ほかのうつわに之を貯えて食案ぜんに上す。すなわち汁を用いるも用いざるも各自にんにん適宜ほどよきたるべきなり」


 ……う~ん、読みにくい。

 というわけで、現代語で表記してみましょう。


「卵黄二個をといてサラダ油大さじ1を加えてよく混ぜる。

 酢大さじ1,カラシ小さじ1を加える。

 別の器に入れて食卓に出す。

 この汁(ソース)は各人の好みで用いる」


……現代のマヨネーズに比べて油が少なく、カラシが多く、かつ酢を加えた後に攪拌しろという指示が無いのが気になるところですが(しっかり乳化させるプロセスが記載されてませんので)、卵黄・酢・油を用いたソースという点でマヨネーズに近いものであろうかと推測されます。


 このレシピを試作する場合の問題点として、以下があげられます。


・使用する道具についての記載が全くない

 たとえば「かきまわす」工程ですが、ここで泡立てにも使える小枝を束ねたようなもの(もしくは何本もの箸を使うこと)を想定しているのか、箸2本で混ぜる程度を想定しているのか、文章からは全く見当がつきません。


・どの程度攪拌するか書いていない

 油と酢を混ぜて乳化させるのか、それとも時間が経てば分離してしまう程度の混ぜ方だったのか。

 前者であれば現在のマヨネーズ、後者であればよくあるドレッシング程度の混ぜ方になります。

 このレシピはマヨネーズだ、と断じるのが難しい理由がこれなんですよね。


・材料の詳細が不明

 「芥子」とありますが、これは粒?粉?練り?

 「酢」は何の酢?米酢で良いの?

 「サルテ」油はサラダ油と訳しましたが、実態は何?当時の西洋料理の紹介本だから、オリーブオイルでも使うといいのかな??

 と、再現するために必要な情報がけっこう欠落しています。


……あともう一つ、このソースってなぜかんですよね。

著者が書き忘れたのか、もともと入っていなかったのかは不明です。


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