第2話 テツオとシオ

 ゾンビに追われている生存者たちはすぐに見つかった。

 ノヴァは基地周辺に監視カメラを設置している。いわば縄張なわばりって感じだ。

 脳内のAIにみちびかれるまま、おれはバイクで急行。

 正面からマシンガン……はヤバいよな。要救助者まで殺しちまう。

 生きるか死ぬかの状況でさらに待たせるのは申しわけないが、おれは迂回うかいしてゾンビ軍団の側面をついた。


「オラァ! 花火祭りのスタートだゾンビども!!」

 

 ガガガガガガガガガガッ!!

 おれの軽機関銃がいきおいよく火をく。


「ウリャー!」


 よこぱらをつかれたゾンビの群れはバタバタと駆逐くちくされていった。

 けっこう数が多い。真正面からいどんだらちょっとヤバかったかもな。

 だが不意打ふいうちをかましてやったおかげで楽勝ムードだ。

 半数ほど撃破したところでおれはバイクを走らせ、要救助者のもとへ急行した。


「よおっ、まだ生きてるな!?」


 いったん二人の人間を追い越し、ズザザザーっと砂をまき散らしながらおれは停車する。

 相手は大きな成人男性と中学生くらいの少女。ノヴァの情報どおりだ。


「ああ、すまない助かった!」


 大男のほうが返事をする。

 このゲームをプレイしていて、はじめて会話をする人間だった。

 正直うれしいと思ったがまだゾンビは残っている、ノンビリ会話を楽しむ余裕よゆうはない。


「武器はあるか?」

「いや……もうない」

「じゃあこいつでやれ!」


 おれは予備武器の拳銃を大男にほうり投げた。

 男はあぶなっかしい手つきでどうにかそれを受け取る。


「え、本物かこれ!?」

「そうだよ!」


 おどろく男の横を走り抜けて、おれは後ろにせまるゾンビの群れにたいし攻撃を再開する。


 ガガガガガガガガガガッ!!


 数体のゾンビを撃ち倒し、おれはまだモタモタしていた男に決心をうながす。


「力をせ! その女の子を守らなきゃいけないんだろ!?」

「あ、ああ、そうだ、そうだよ!」


 キッ、と決意の表情になった男は見よう見まねで拳銃をかまえ、ゾンビにむかってがねを引いた。 

 ……しかし、弾は出ない。


「あーわるい、安全装置セーフティは解除してからやってな?」

「…………うん」


 男はちょっと顔を赤らめながら安全装置を解除し、あらためて戦闘に参加した。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「俺は大原おおはら鉄男てつお。こいつは妹の紫織しおだ」


 基地までの道すがら、おれは久々に人間とまともな会話をすることができた。

 鉄男のほうは大学で剣道をやっていたのだという。

 拳銃よりもおれの西洋剣サーベルのほうに興味があるらしく、武器をとりかえた。

 紫織という女の子は無言でペコリとおれに頭を下げる。

 ちょっと緊張きんちょうしている感じだ。

 ……マシンガンを持った男が話し相手ではしかたないか。こえーよな普通。

 かわりに兄貴のほうがちゃんとした話し相手になってくれる。


「本当に助かったよ。街を追い出されちまって、武器もなくしちまって。もう本当に終わったかと……」


 聞けば木刀ぼくとう一本でゾンビと戦い、ここまでたびをしてきたんだと。

 んで一夜かぎりの宿やどとしてとあるはいビルに入ったら、不運にもそこがゾンビ軍団の棲家すみかだったんだと。

 必死で戦っているうちに愛用の木刀もうばわれるように落としちまって、どうにもならなくなってもうダメだー!

 ってタイミングでおれが登場したんだと。

 今までよく生きのびたもんだと素直に感心する。


「苦労したんだなぁ、あんたら」

「ああ。ところであんた、名前は?」


 鉄男にそう問われて、おれははじめて自分の名前が分からないことに困った。


「ああ、ええと……ゼロワン……」

「え?」

「あのー実はおれ記憶喪失きおくそうしつでさ、自分の本名がわからんのよ」

「まじか」

「マジもマジよ」

「……あんたも結構苦労してるんだな」


 なんだかみょうな空気になっちまったところで、おれたちは基地にたどり着いた。

 鉄筋コンクリートの建物で、ペンキがちていない真っ白な外観がいかん

 ちなみに地上三階建て。

 地下は……二階までしかまだ解放されていないが、さらに先があるようだ。


「えーっ! すごい建物じゃないですか!」


 それまでだまっていた紫織ちゃんがおどろいた。

 周囲が廃墟はいきょだらけなのに、おれの基地だけまるで新品。

 外壁はヒビひとつなく、ペンキがはがれている所もないのだ。

 どうやらここにあったビルぐんをすべて撤去てっきょして広い更地さらちをつくり、そのうえでこの基地を作ったような雰囲気ふんいき

 どこの誰がこんな時代にそこまでの手間暇てまひまをかけたのか、それはわからない。

 ノヴァに聞いても『それはストーリーが進むにつれてあきらかになります』などといって答えてくれないのだ。


「えっと、ゼロワンさんたちって何人でここに住んでいるんですか?」

「おれ一人だけど?」


 大原兄妹は目を丸くして言葉をうしなってしまった。


「ゼロワンさんって、なにもの……?」

「おれもそれを知りたいんだけどねー」


 ゲームの主人公だ。とかいう発言はイタすぎるので言いたくない。

 それと。

 この世界が本当にゲーム世界なのか、どうもあやしくってねぇ。

 話し相手が脳内コンピューター『ノヴァ』だけだと「ゲームなのかも」って思うけど、こうして別のキャラクターに接してみるとやっぱりリアルすぎて「ゲームじゃない」って思っちゃう。

 そこんところはやっぱり『ストーリーが進むにつれてあきらかになる』んだろうね。


 さてはじめてのお客様お二人をマイホームにご招待しょうたいした瞬間。

 おれの脳内でノヴァが警告けいこくを発した。


『大原鉄男、大原紫織の二名を簡易スキャンいたしました。大原紫織は異常ありませんが、大原鉄男はZ《ゼット》-ウィルスの感染初期状態にあります』


 なに!?

 Z-ウィルスこそ世界をこんな地獄に変えた悪魔。

 人類をゾンビに変えてしまう世界史上最悪の病原菌びょうげんきんだ。

 鉄男さんがその感染者だと!?


『今後、大原鉄男はゾンビ化し、あなたをおそう可能性があります。

 あなたはすみやかに彼を排除はいじょしますか?

 それともあえて見送り、経過けいかを観察しますか?』


 脳内に響きわたる冷徹れいてつな女の機械音声。

 非情な選択肢を前に、おれは即決できなかった。

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