倒置法という文体上の遊びを、単なる小ネタで終わらせず、作品の推進力そのものにしているのが見事でした。
最初は語順のひっくり返りに失笑するのに、読んでいるうちに、こちらの認識まで少しずつ攪乱されていく。その感覚がそのまま、“探偵が何を見て、何を見落としているのか”という作品の構造と重なっているのが巧いです。
主人公の置田倒次郎も好印象。
決め台詞からして胡散臭いのに、完全な無能ではなく、ちゃんと一部では推理が当たっている。その半端な有能さが、かえって作品の可笑しみを強めています。
しかも、周囲の事件の全体像がうっすら見えているのに、本人だけが自分の担当案件に妙に忠実で、別の重大さを脇へ追いやってしまう。このズレがとてもいい。
何より良いのは、文体の遊びが最後まで読み味の核になっていることです。
言葉遊びだけの作品は、読者が慣れた瞬間に息切れしがちですが、この作品は「バールのようなもの」というおなじみの曖昧表現まで巻き込み、倒置法ならではの可笑しさを次々に更新していく。
短いながら、言語と推理と不条理感覚がきれいに噛み合った、非常に完成度の高い作品でした。