第3話 王都入城と「Aランク」の勘違い

「ヤン……キー……? それは貴方の故郷の言葉ですか?」


 馬車の前で、ドレスの女——セラフィナと名乗ったその令嬢は、首を傾げていた。 無理もねぇ。この世界に「特攻服」も「ヤンキー」も存在しねぇんだろう。


「……まあ、騎士道精神の過激派みたいなもんだ。気にするな」


 適当に嘘を吐いて、俺は彼女の勧めに従い馬車に同乗することになった。 隣に座るセラフィナから、花のようないい香りがする。……チッ、落ち着かねぇ。


「それにしても、あのゴブリンの群れを視線だけで追い払うなんて……。赤城様は伝説の『覇王』の加護をお持ちなのですか?」


「加護だの何だの、そんな大層なもんじゃねぇよ。ただの『気合』だ」


 俺は窓の外を流れる異世界の景色を眺めながら、内心で舌を巻いていた。 さっきのステータス画面をもう一度確認する。


【タイマン特化:不退転】(一対一の状況で全ステータスが10倍になる)


 ……10倍って、そりゃあ豆腐を殴るような手応えになるわけだ。 しかも、一人称視点(タイマン)であれば、相手がどれほど巨大な化け物でもこの補正が乗るらしい。 集団戦は面倒だが、一匹ずつブチのめせば俺に敵はいねぇってことか。


「見えてきました。あちらが王都オルトギアスです」


 セラフィナが指差す先には、巨大な石壁に囲まれた街が広がっていた。 城門の前には長い行列。武装した兵士たちが、入城者の検問を行っている。


「おい、あの格好を見ろ……」

「妙な刺繍の入った黒い服……。魔導師か? それとも暗殺者か?」


 並んでいる連中がヒソヒソと俺を見てやがる。 だろうな。金糸で『唯一無二』『天上天下唯我独尊』と刺繍された学ランは、この世界じゃ目立ちすぎる。


「止まれ! 貴様、見慣れぬ格好だな。身分証を……」


 門番の兵士が槍を突き出してきた。 だが、馬車の窓からセラフィナが顔を出すと、兵士の顔面は一瞬で紙のように白くなった。


「……っ!? セ、セラフィナ王女殿下!? 失礼いたしました!」


 王女、だぁ? ただの金持ちかと思ったら、とんでもねぇ上玉(じょうだま)を拾っちまったらしい。


 門を通り抜け、活気溢れる大通りを進む。 セラフィナは「命の恩人を放っておけません」と、王宮直轄の高級宿へと俺を案内した。 一階は酒場になっており、昼間からガラの悪い武装した連中——『冒険者』ってやつらが騒いでいる。


「おいおい、なんだあのヒョロガリは?」


 奥のテーブルに座っていた、一際デカい大剣を背負った男が立ち上がった。 取り巻きの男たちがニヤニヤしながら俺を囲む。


「王女様に連れられてくるとは、良いご身分だな。……なぁ、兄ちゃん。その変な服、いくらで売れるんだ? 記念に置いてけよ」


 男の手が、俺の肩に置かれる。 瞬間、俺の頭の中で何かがブチ切れる音がした。


「……おい」


 俺は、ポケットに手を入れたまま、冷たく言い放つ。


「その汚ぇ手、今すぐ離さねぇと……根元からへし折るぞ」


「あぁん? Aランク冒険者であるこの俺に——」


 男が拳を振り上げた瞬間。 俺の【メンチ切:極】が無意識に発動する。


「ひっ……!?」


 男の動きが止まる。 奴の目には、今の俺が巨大な死神にでも見えているんだろう。 ガタガタと震え出した拳を、俺は左手で軽く掴み、そのまま握りつぶした。


「——ぐ、あああああっ!!?」


「Aランクだか何だか知らねぇが、格下の相手を囲んでカツアゲか? どこの世界も、腐った連中のやることは変わらねぇな」


 俺は男の胸ぐらを掴み、至近距離で顔を近づけた。


「いいか。二度と俺の前に面(ツラ)見せんじゃねぇ。次があったら……次は『事故』じゃ済まさねぇぞ」


 そのまま男を入り口まで放り投げると、奴は仲間とともに尻尾を巻いて逃げ出した。 静まり返る酒場。 呆気に取られるセラフィナを余所に、俺は空いている席にドカッと座った。


「……おい。ここ、水(冷や水)はあるか?」


 異世界に来て数時間。 どうやら俺の拳は、この世界でも十分に通用するらしい。

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